“マルハラ論争”あなたはどう思う?―俵万智「感覚の違いが可視化されるのは良いこと」
「相手がどんなルールで運転しているか広い心で見る」SNSを利用するときの心構えとは
――10年以上SNSを利用されている中で、俵さんご自身はSNSを使う良さをどう感じていますか。 俵万智: かつて「リツイート我もするなりツイッターは言葉のバケツリレーと思う」という短歌を詠んだことがあります。「バケツリレー」のように、誰かが発した言葉を次の人がリツイートすることで、多くの人々に言葉が伝わるというのが、私の感じているSNSの魅力です。それはずっと変わらないですね。 短歌は、特にSNSに向いている形式だと思います。小説1冊を140文字のXで伝えるのは難しいですが、短歌はその短さ故にSNSでまるごと届けることができますから。短歌の31文字が、読んだ人の心の中で100文字、1000文字、さらには1万文字にも広がったらいいなっていつも思っています。短いことは窮屈だったりマイナスだったりするものではなく、短いからこそ読む人が参加し、読み手の中で完成させる余地があるのです。 やっぱり私は言葉を届けたいと思っているので、多くの人に届くっていうことはすごく嬉しい。短歌がSNSを経由して即座に多くの人に読まれ、普段歌集を買わない人までも届いていく。そう考えるとすごいツールだと思います。希望を感じますよね。 ――SNS上ではたびたびトラブルが発生することもありますが、俵さんはSNSに対してどう向き合うべきだと考えていますか。 俵万智: SNSのコミュニケーションは言葉だけですから、情報の解像度が低くなり、誤解やトラブルが発生しやすくなるのだと思うんです。実際に会って話すのとは異なり、言葉以外の声色、表情、服装、年齢などの要素が見えないですからね。だからこそ、注意深く言葉を扱わなきゃという面があるんだと思います。 ある知り合いが、募金活動が締め切られたと思っていたらまだ続いていたので、「まだやってるんだ」と書いてXにポストしたそうです。その人は、「まだ募金活動が継続していることを知らせたい」とポジティブな文脈のつもりで発信したのですが、その言葉だけだと「長々と募金活動をやってる」と、ネガティブに受け取る人もいる。「まだやってるんだ♡」とハートマークでも付ければ、発信の意図がより明確になったかもしれないのですが。自分が発するときは1通りの解釈しか思いついていないときもあるから、言葉だけが飛び交う中ではより注意深く、発信することが必要にはなっていると思いますね。 SNSでは、言葉が驚くべきスピードで広がり、知らない人にも届いてしまいます。そのため、ルールを知らないと、まるで高速道路を無免許運転しているくらいの感じでトラブルや事故が頻発していますよね。急速に一般化したSNSは、ルールが整う前に道路ができ、車もできてしまった状況かもしれない。よくSNS上で言い争いを目にしますが、「俺のルールはこうだ!」という主張を延々と続けていては、問題は解決しないですよね。そんな中でトラブルを避けるためには、相手がどんなルールで運転しているかを広い心で見ることも大事だと思います。 ----- 俵万智 1962年生まれ、大阪府出身。歌人。早稲田大学在学中に歌人佐佐木幸綱に出会い、短歌を始める。1987年、第一歌集「サラダ記念日」が話題を呼び、空前の短歌ブームを起こす。88年、『現代歌人協会賞』を受賞。歌集や、エッセイ、評論、紀行など著書多数。23年、『紫綬褒章』を受章。最新歌集は『アボカドの種』 Yahoo!ニュースVoiceでは、“SNS上での言葉づかいに関するモヤモヤ”について、あなたの体験を募集しています。本記事にコメントを投稿してみませんか?Yahoo!ニュース内コンテンツにて、いただいたコメントを取り上げさせていただく場合がございますのでご了承ください。 文:蜂谷智子