ヒョウの絶滅危機、IUCNが評価を更新、数も生息地も20年余りで3割も減少
近親交配の兆候も、高まり続ける脅威、ただし一部の地域では改善
国際自然保護連合(IUCN)が、絶滅の恐れがある野生生物のリストである「レッドリスト」を更新するなかで、ヒョウについての評価報告書を発表した。それによると、一部の亜種は安定またはわずかな回復が見られるものの、その他には深刻な危機が迫っていると警鐘を鳴らしている。 【動画】絶滅寸前のアムールヒョウ、貴重な母子の姿 ヒョウはかつて世界の広い範囲に生息していたが、過去22年間(3世代)で30%以上も減少し、これまでに15の国と地域ですでに絶滅、11カ国で絶滅した可能性がある。報告書は、「人口増加による迫害が続いたことが、個体数の激減を招いた」としている。 ヒョウは現在、セネガルの大西洋岸からシベリア東部まで、アフリカとアジアの62カ国に生息している。その生息地は大型ネコ科動物としては最も広く、海抜0メートルから5200メートルまでの森林、山岳地帯、サバンナ、砂漠、ジャングル、さらにはインドの大都市ムンバイにある国立公園も含まれている。 ヒョウは適応力が高く、なかなか人目につかず、ほかの野生のネコ科動物なら選ばないような場所で暮らしているため、生息状況を評価することは難しい。 今回と前回(2016年)の分析を主導したヒョウの専門家のアンドリュー・スタイン氏は、「人々はヒョウがうまくやっていると思い込んでいますが、生息地のほとんどで生存が脅かされていることを示す証拠が集まってきています」と言う。 今回の報告書は、世界の大型ネコ科動物の前に広がる暗い未来を暗示している。これは、ヒョウと同じ地域に生息する多くの動物にとっても悪いニュースだ。生態系の頂点捕食者がいなくなると、変化が連鎖的に伝わって、生態系のバランスがますます崩れてしまうからだ。
良い知らせと悪い知らせ
IUCNはヒョウ(Panthera pardus)を種全体として、個体数の急速な減少などにより絶滅の危険性が高いとされる「危急種(Vulnerable)」に分類している。今回の調査では、ヒョウの8つの亜種のそれぞれについての評価も行われた。その結果は、生息地によってさまざまだった。 インドヒョウ(P. p. fusca)は、よく研究され、管理されるようになった結果、生息地が広がり、比較的良好な状態にある。個体数は1万5000頭以上で、評価は「危急種」から危険度が1段階低い「近危急種(Near Threatened)」に引き下げられている。 スリランカヒョウ(P. p. kotiya)の評価は「危急種」で、777頭しか残っていない。 アフリカヒョウ(P. p. pardus)も「危急種」で、急速に姿を消しつつある。非営利団体「パンセラ」の野生ネコ科動物学者のマリーン・ドルイリー氏によると、成体の頭数も繁殖できる健全な群れの数も分かっておらず、場所によっては残っているかどうかも分からないという。 ジャワヒョウ(P. p. melas)の評価は野生絶滅の一歩手前の「近絶滅種(Critically Endangered)」から「絶滅危惧種(Endangered)」に引き下げられたが、残っているのはわずか319頭。島にすんでいるため、生息地を広げる余地はほとんどなく、その将来は管理のしかたにかかっている。 IUCNのネコ科専門家グループのメンバーであるハリヨ・ウィビソノ氏は、ジャワヒョウはこの5年間で大きな注目を集めるようになり、政府、保護団体、ヒョウの研究者、地域社会の協力により保全活動に進展が見られたと言う。 インドシナヒョウ(P. p. delacouri)の評価は「近絶滅種」で、深い懸念が指摘された。スタイン氏は、「インドシナヒョウは密猟の対象となり、生息地はほぼ破壊され、東南アジアの4カ国で、獲物のいない荒れ果てた森にわずかに残っているだけになりました」と言う。 「次の評価が行われるまでに姿を消してしまう可能性は十分にあります。ほんの10年、15年前には考えられなかったことです」 最も小型の亜種であるアラビアヒョウ(P. p. nimr)も、「近絶滅種」と評価されている。成体はわずか70~84頭しか生存していない。サウジアラビアではすでに絶滅しているが、同国は2019年に2000万ドル(約28億円)を投じてアラビアヒョウの復活に乗り出した。 飼育下で繁殖させた個体を野生に戻すことは難しいが、最近のスペインオオヤマネコや後述するペルシャヒョウの成功例は、それが不可能ではないことを示している。 IUCNは遺伝子解析に基づき、アムールヒョウ(P. p. orientalis)と中国北部の亜種を統合することにした。「アムールヒョウは、2000年代には25~35頭しか生息していないと推定されていました」と、非営利団体「野生生物保全協会(WCS)」の大型ネコ科動物の専門家であるデール・ミケル氏は言う。 今回の評価は「近絶滅種」だが、生息地の保全とシカやイノシシの再導入により、2022年までに、ロシアでは100頭以上の成体が確認されている。中国の個体数も増えているが、まだ存続可能な数には達していないと氏は言う。 大型の亜種であるペルシャヒョウ(P. p. tulliana)の評価は「絶滅危惧種」だが、展望は明るく、個体数は750~1044頭で、長らく姿を見せなかったイランやイラクの一部地域にも再び現れている。 IUCNと「移動性野生動物種の保全に関する条約(ボン条約、略称CMS)」が共同でトルコからコーカサスまでの専門家から情報を集めたため、ペルシャヒョウはどの亜種よりも詳しく記録されている。スタイン氏は、異なる地域の人々が保全活動で協力することで何が起こり得るかをよく示す成果だと言う。