ヒョウの絶滅危機、IUCNが評価を更新、数も生息地も20年余りで3割も減少
ヒョウの未来を脅かす脅威
これらの評価は、ヒョウの現状について一概に語ることができない理由を示している。 その生息状況や、直面する脅威や、保護レベルは地域によって大きく異なり、不明な点も数多く残されているのだ。 2つの大陸にまたがる種の分布と生息地を把握するには、現地調査とマッピングとコンピューターモデルが必要だ。しかし、生息地が760万平方キロメートルに及ぶなかで、これまで一度も調査されていない場所も少なくない。 生息地の縮小、餌物の減少、人間との摩擦は、ヒョウの長期的な生存に対する最大の脅威だが、気候変動の深刻化や人口の増加も脅威となっている。 ヒョウの生息地の多くは、驚くべき規模と速さで失われている。報告書では、「ヒョウの生息地は過去3世代(22.3年)の間に全世界で30%以上も減少したと推測される」と記されている。8年前の2016年と比べても、11%も減っている。 最も大きく減ったのはアフリカだ。「森林やサバンナが、農地や街に変わりました」とドルイリー氏は言う。報告書は、2050年までにサハラ以南のアフリカの人口が倍増する可能性があり、人間がより広い土地を必要とするようになると指摘している。 一方、インドでは生息地が広がり、ロシア極東部と中国北東部では繁殖地が20年で2倍に増えたという。 ヒョウは、食べ物や水やパートナーを見つけたり、縄張りを確保したりするために移動する必要がある。人間が侵入すればヒョウの生息地が分断され、群れは孤立する。ドルイリー氏は、自由に移動できなくなることが、アフリカヒョウにとって大きな脅威となっていると言う。 野生生物の回廊が失われれば、近隣の群れからの新しい遺伝子の流入がなくなり、ヒョウたちは近親交配をせざるをえなくなる。そうなれば、将来に懸念が生じる。 近親交配はすでに起きている。「アムールヒョウには、白い足や短くねじれた尾など、近親交配の兆候が見られます」とミケル氏は指摘する。 農場や牧場、都市の拡大により、ヒョウたちは生息地を追われ、人間の近くで生きることを余儀なくされている。ヒョウの生息地が牧場に重なれば、畜主はヒョウを駆除しようとする。また、商業的な野生動物狩りでヒョウの獲物が激減し、飢えたヒョウが家畜を襲えば、畜主によって報復される。 密猟の問題もある。ヒョウの毛皮、歯、骨、爪は国際的に高値で取引されている。報告書では、東南アジアの密猟者はヒョウを1頭仕留めれば最高3000ドル(約43万円)を手にすると推定されており、アフリカでは儀式に使うヒョウの毛皮や体の一部の違法な取引が増えている。 ヒョウが直面する脅威は、ほかにも、鉱山、道路、政情不安、武力紛争から、森林伐採、鉄道、山火事、野放し状態のトロフィーハンティングなど、枚挙にいとまがない。 スタイン氏はヒョウを「究極のサバイバー」と呼ぶ。ヒョウは俊敏で、強く、非常に賢い。物陰に身を隠し、どこでも生きることができ、なんでも食べ、人里近くにも僻地にも暮らしている。「そんなヒョウが絶滅の危機に瀕しているという事実は、世界が直面するより大きな課題について、多くのことを物語っています」 今回の評価報告書は、ヒョウの減少を食い止めるためにはさらなる注目が必要だと強調しており、ヒョウの保護に関する意思決定と行動を促す強力な根拠となっている。
文=Sharon Guynup/訳=三枝小夜子