大学3年で「閉じこもり」に…精神疾患を発症した息子が、支えてくれる母親に告げた「奇跡の一言」
「おかあちゃん、こんな僕やけど……」
そんな山川さんには、忘れられない出来事があります。彼女はかねてから、関西でも有数の打ち上げ本数を誇る花火大会に行ってみたいと思っていました。しかし会場は、家から電車やバスを乗り継いで2時間もかかる場所にあるうえ、見物客でごった返すのは確実でした。どうしようか迷っていたとき、精神疾患がある次男がこう申し出ます。 「ボディーガードしたろか」 次男とともに訪れた花火大会では、色鮮やかな花火が次々と打ち上げられ、夢のような光景がくり広げられたそうです。楽しい時間はあっという間に過ぎ、花火がすべて終了し、帰ろうとして、ふとまわりを見渡すと山川さんはものすごい群衆のただなかにいました。 しかし、次男のエスコートで、山川さんは無事に人ごみを抜けることができました。〈こんな疲れることをさせて、悪かったな……〉そう申し訳なく思っていたところ、次男が山川さんにポツリと何か言いました。喧噪(けんそう)にかき消されて聞き取れません。山川さんが聞き返すと、次男はもう少しはっきりした声でこう言ったそうです。 「おかあちゃん、こんな僕やけど、産んでくれてありがとう」 社会福祉に携わり始めて、もうすぐ40年になります。その過程で私は、山川さん、あるいは山川さんの次男のような、精神疾患・発達障害の「当事者」にたくさん出会い、感動を分けていただきました(その一部を、山川さんの次男が口にした印象的な言葉をタイトルに冠した自著のなかでご紹介しております。【参考文献】をご覧ください)。 そんな当事者の、どの方にも共通していることが1つあります。みなさん、社会に出合い、制度を知り、その過程で仲間や支援者を得ることで視野が広がり、「生きづらさ」が和らいでいった、ということです。知ることは未来を創造することにつながるのだと、学ばせていただきました。 山川さんの時代、情報を得るには「足で稼ぐ」しかありませんでした。いまは口コミから雑誌、書籍、インターネットまで、いろいろな手段で、家に居ながらにして情報収集することが可能です。 しかし、社会保障制度の情報はあちこちに散らばっており、見落としてしまうこともあります。本人・家族に対して行われている経済的な支援制度だけでも、その全体像をつかめるようにしたい……そのような思いからこの度、『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』という書籍を刊行しました。記事後編では、この本のなかから手当制度についてもう少し詳しい情報をご紹介します。 【参考文献】 青木聖久『おかあちゃん、こんな僕やけど、産んでくれてありがとう』(ペンコム、2022年) 後編〈発達障害・精神疾患がある子の親は要チェック…「自治体独自の手当」をもらえる可能性があることを知っていますか?〉へ続く。
青木 聖久(日本福祉大学教授、精神保健福祉士)