温泉ホテルの「廃墟」が観光名所に 佐賀・武雄温泉のホテルが取った大胆な起死回生策とは?
歴史的な場所に昭和41年創業、一時は経営破綻寸前に
ホテルが誕生したのは昭和41(1966)年で、団体旅行華やかなりし高度経済成長時代の真っ只中。その後、団体旅行が下火になるにつれて苦境に立たされる。現社長である小原嘉久さんが、この宿を買い取った父から引き継いだ頃には、経営破綻一歩手前だったという。 そんな、昭和の時代を象徴するような鉄筋コンクリートの大型ホテルが起死回生を図るため、2015年から手掛けたのが庭や館内をデジタルテクノロジーによるアートで彩った「チームラボ かみさまがすまう森」の展覧会。以後、10年間にわたって進化を続け、注目度も上がっていった。 なかでもフロアロビーや廃墟エリアを彩るアート展「チームラボ 廃墟と遺跡:淋汗茶の湯」は2019年に初めて開催された。2020年からは常設展示され、宿泊者とサウナ利用者は無料で作品体験ができる。11時から22時まで体験可能だが、廃墟ツアーだから行くなら断然、昼よりも夜の方がいい。
廃虚の大浴場に花々が咲く幻想的な風景
本館2階部分の建物奥に位置する元・大浴場は、「おそらく平成になってから、ずっと使われていなかった」(支配人の前田亮さん)廃墟である。 この《廃虚の湯屋にあるメガリス》と名付けられた大浴場には、今も半円形の湯船や洗い場がそのまま残っていて、巨大な石柱「メガリス」が不均一にニョキニョキとそそり立つ。この石柱にはコンピュータープログラムによって、1時間で1年間の花々が咲き、そして散り、枯れていく様子が描き出される。 同じ映像が繰り返し描き出されるのではなく、人が近づくと滝の水の流れが変わり、近くで人が動くのを感知すると、花が散っていくようにプログラミングされている。また、無数の水の粒子が作り出す線が空間を流れるように動き、幻想的な風景を生み出している。さまざまな要素が織りなす壮大なアート体験は、まさに生と死のサイクルが体感できる空間である。
チームラボが生み出すアートで、お化け屋敷が楽園に
さきほどの大浴場と左右対称の湯屋にも美しい花が出現するが、こちらは「チームラボ かみさまがすまう森-ジーシー」で11月初旬~7月中旬に展示される《廃墟の湯屋のフラワーズボミング》という作品。この場所で7月中旬~11月初旬に展示される作品《グラフィティネイチャー》を訪れた人々が紙にお絵かきした花々をスキャンし、デジタルで描き出したものである。 初めは「お化け屋敷」みたいな暗闇から始まった「廃墟ツアー」だったが、ピンクや黄色、青など色とりどりの美しい花々に囲まれているうちに、御船山楽園で自然散策をしているような清々しい気分に変わっていた。 御船山楽園ホテルの廃墟エリアは、単なる過去の遺産ではない。デジタルテクノロジーの力で生まれ変わったこの空間は、昭和の残骸が新たな命を得た、アート体験の場なのである。