「目標設定は自分で」がダメな理由。伊藤忠岡藤CEOが考える人材育成、配置の鉄則
「商売は連戦連勝とはいかない」
「商売は連戦連勝というわけにはいかない。」 岡藤はそう言う。当たり前だ。どれほど商才がある人でも売れなかった商品はある。 誰だって商売をしている人なら、想定したよりも売れなかったことに愕然とした経験がある。ただし、負けることは仕方ないが、負け方というものがあると岡藤は考えている。 「商売はプロ野球の試合と似たところがある。一戦一戦が真剣勝負。試合の勝敗の積み重ねが、ペナントレースの結果につながってくる。商売では期末の決算がそれに当たる。プロ野球の球団が優勝を目指すのと同じで、僕ら商人は予算達成を最優先にして仕事をする。 期初に立てた目標を達成することができれば勝ち。目標に届かなければ負け。 これははっきりしている。毎回、予算達成して売り上げと利益を伸ばすことができたらそれはいいけれど、現実はなかなか難しい。 商売は勝つことも負ける時もある。 僕だって、商売上の失敗は数え切れないですよ。土壇場で契約を取り消されたり、ライバル企業に仕事を持っていかれたり……。 とりかかる前はできると思って計画したのに、うまくいかずに悔しい思いをした。何度もあります。 ただ、黙って、こてんぱんに負けてはいけない。一点も取らずに負けてはいけない。そこがプロ野球とはちょっと違う。商売では負け方が非常に重要なんです」 彼が言うのはゼロ封で負けるのはダメということだ。大差がついていても、食い下がって点を取るべきだ、と。 少しでも差を詰める努力をしないと負け癖がついてしまうからだろう。 岡藤がよく例に出すプロ野球では1対ゼロでも10対ゼロでも、負けは負けだ。選手、監督、コーチ、選手は落胆はするが、翌日の試合で勝てばいいと気持ちを切り替えだろう。プロ野球は何点差で負けようが、負けの数はひとつだ。 だが、「商売ではそういうわけにはいかない」と岡藤は言っている。 「大差で負けると社員の士気に影響する。他の仕事にも影響がないとは言えない。 『あそこの会社は入札で出した金額が一桁違っていた』といった風評が流れたら、次の入札が回ってこないことだってある。 つまり、商売は単なる勝ち負けではすまない。何点差で負けたのかが大きく影響してくる。負けると分かっても、10対ゼロで負けてはいけない。最後まで失点を少なくする努力をし続けること。事業で負ける場合は負けを極小化しなくてはいかん。 例えば、投資をして大きな損をしたとする。損の金額が1億円なのか100億円なのかで、全然違う。100億円の損失を商いで取り返そうと思ったら、大変だ。それだけの巨額を負けると、取り戻すのにえらい苦労する。 だから、絶対に大きな額を負けてはいけない。 それと、気持ちがなえるというか、大きく負けると心が沈む。そのまま次の仕事をしなきゃいかん。これが怖い。また失敗する可能性が高まる。 小さな負けなら、ぐっと踏みとどまることができる。だから、負けている最中でも、損を極力抑えることに頭を使う。これが大事。商売は連関しながら、延々と続いていくもの。ひとつの負けが他に影響することを考えて、知恵を絞るべきだ」