考察『光る君へ』48話「つづきは、またあした」まひろ(吉高由里子)の新しい物語へと三郎(柄本佑)は旅立つ「…嵐がくるわ」最終回、その強いまなざしの先に乱世が来ている
48話「物語の先に」で最終回を迎えた大河ドラマ『光る君へ』 (NHK/日曜夜8:00~)は、平安時代、『源氏物語』の作者・紫式部によって光る君=光源氏の物語はどう紡がれていったのかが描かれました。幼い日に出会ったまひろ(後の紫式部/吉高由里子)と三郎(後の藤原道長/柄本佑)の波乱の人生の行き先はどう示されたのでしょう。ドラマを愛するつぶやき人・ぬえさんと、絵師・南天さんが各話を毎週考察する大好評連載(今回で特別編2回を含む50回目)も最終回です。
京都会場で最終回
2024年12月15日。私はドラマ絵師・南天さんと共に『光る君へ』最終回パブリックビューイング会場で最終回を見届けた。 私、南天さん、『クロワッサン』の編集さんで東京でのファンミーティングと大津、京都の最終回パブリックビューイングの観覧募集に応募し、ほかは落選して唯一、京都会場のみ当選したのだった。 倍率を聞きこれはもう駄目ですねえと諦めていたので、当選を知って泣いた。 一年間自宅でドラマを観ながらPCに向かいパチポチとドラマレビューを打っていたため、大勢の『光る君へ』ファンの皆さんと共に笑ったり涙したりの視聴がとても新鮮で、貴重な経験だった。いつもLINEで打ち合わせをする南天さんと肩を並べて最終回を見届け、ふたりでハンカチ握りしめて涙したことも忘れないだろう。 大石静先生と中島由貴チーフ演出、内田ゆき制作総括のお話、吉高由里子さんと柄本佑さんのスペシャルトークも、ドラマレビューを書く前に変な意味での答え合わせになってしまうのはよくないかもしれないなどとおかしな心配をしてしまい、お話の途中で、ここは聞かないほうがいいかな? という内容は敢えて集中しないようにしながら座っていた。 貴重な体験をした上で書いた、最終回のドラマレビューをお送りします。
演技力を信頼しきった演出
47話の最後で全国の視聴者を凍りつかせたであろう倫子(黒木華)のまひろ(吉高由里子)への質問「それで、あなたと殿はいつからなの?」から最終回はスタートした。一週間ずっと気になっていたのだ、あれから一体どうなったのかと……。 ホラー風でもサスペンス風でもない、静かな演出で倫子の問いかけは続く。 まひろが土御門殿に来てから道長の様子に変化があり、まひろを見る道長の目は「誰が見てもわかるくらい揺らいでしまって」いたと。 土御門殿でも内裏でも噂になっているよなと思って観ていたが、この言い方だと公然の秘密として扱われていたのではないか。道長の態度を観ていると、そりゃそうだとは思う。 倫子「まひろさん。殿の妾になっていただけない?」 道長の妻としての誇りと体面を維持しつつも、病み衰えた道長を少しでも支えるにはどうしたらよいのか。倫子なりに悩み考えた末の提案だったろう。そして、道長との仲はいつからかと重ねて問う。覚悟を決めて、まひろが打ち明けた。 まだ三郎と名乗っていた道長と初めて会ったのは9歳。小鳥を逃がして泣いていた自分を慰めてくれた少年だった……再会を約束したが、その約束の日に彼の兄・道兼(玉置玲央)に自分の母を殺されてしまい会いには行けなかった。道長と共に親しくしていた散楽の者──直秀(毎熊克哉)らが殺されて、ふたりで葬った。壮絶な悲しみを分かち合えるのはお互いしかいなかったのだと──。 こうして並べてみると情報量が多すぎる。私が倫子だったら「待って。ストップ! いったん整理させて!」と叫んでしまうだろう。 このシーンは、回想場面を一切挟まず、まひろの淡々とした語りと倫子の微妙な表情の変化だけで構成される。まひろが語り終わるまで音楽もない。吉高由里子と黒木華の演技力を信頼しきった演出であり、ふたりの名女優は見事に応えている。引き込まれて目が離せなかった。 すべてを聞いた倫子は言わずにはいられなかった。 「彰子(見上愛)は知っているの」「あなたは本心を隠したまま、あの子の心に分け入り、私からあの子を奪っていったのね」。 まひろが藤式部として彰子に仕え始めた頃、倫子は出産でダメージを負い、娘の傍にいられなかった。どのようにしてまひろが彰子の信頼を得るに至ったか、その経緯をつぶさには見ていない。 その後の一条帝(塩野瑛久)と彰子の関係を考えれば藤式部の功績は大きいが、母としての倫子は、心に澱を抱えることとなったろう。そして、出仕するずっと前からまひろが道長と関係を持っていたことを知った今、倫子には、これまでのまひろの行動が、敵意に基づいたものに感じられてしまった可能性もある。 自分が出会う前から夫と関係を持っていた女が娘に近づき、夫ばかりか娘の心も奪って意のままにした。身分が低い、財もない女が高貴な正妻に陰で復讐をしていた……と。 ただ私には、このあたりの台詞は、自分と出会うよりもはるか以前に巡り合っていたまひろと道長の縁に、とても敵わないと思っての八つ当たりで、積年の怒りが噴き出しただけのように見えた。 もう隠し事はないかと念を押されたまひろは、倫子の目をまっすぐ見つめ返し「はい」と答える。賢子(南沙良)が道長の娘であることは、明かしたところで誰も幸せにならない秘密だ。 倫子「このことは死ぬまで胸にしまったまま生きてください」 それ以上責めず、口止めだけにとどめたのは、倫子の精一杯の矜持であった。 そして道長のもとを訪れ、4番目の娘・嬉子(瀧七海)を東宮・敦良親王(彰子の次男)に入内させることを申し出た。様子がおかしいといぶかる夫に答えず、 倫子「次の帝も我が家の孫ですけれど、次の帝も、そのまた次の帝も我が家からお出ししましょう」 と微笑む。女として妻として母としてズタズタに傷ついた今は、最高権力を掌握する家の女主人であることだけが彼女の拠り所だ。 嬉子は道長と倫子の長男である摂政・頼通(渡邊圭祐)の養女として、14歳で東宮・敦良親王に入内した。
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