冷戦期の遺物「核共有」にこだわる石破首相の思考。アメリカは拒否、核不拡散条約違反との批判も
日本で言えば、日本にアメリカの核兵器を持ち込まない状態で、「核共有なしの核協議参加」はできる。だが、「核兵器を日本に配備しておいて、いざとなったらそれを使うという体制」を整えなければ、核共有は成立し得ない。 要するに、総裁選時や岸田首相(当時)とのやり取りで石破氏が唱えたのは、核共有という言葉の普通の使い方に従えば、「持ち込みなし・核共有なしの核協議参加」のようだ。簡単に言えば、アメリカとの核協議をもっと強化すべきだという話になる。
しかし、不思議なのは、石破氏が短期間で矛盾した主張をしている点だ。 9月16日の討論会で「持ち込みなし」の核共有は非核三原則に抵触しないから導入を検討すべきだと言っておいて、9月20日ごろにハドソン研究所から寄稿依頼を受けて送った論考では、「持ち込み」を前提としたアジア版NATOでの核共有を検討すべきだと主張している。概念の整理ができていないということなのだろうか。 アジア版NATOの場合も、中国の抑止を目的とする構想のはずなのに、石破氏はこれに中国も参加してほしいと述べたことがあると、矛盾を指摘する声がある。こちらは、国連のような集団安全保障体制とNATOのような集団的防衛体制(軍事同盟)という2つの概念の混同から来る混乱のようだ。
石破氏は、首相就任後、アジア版NATOや核共有の議論を棚上げにしている。だが、自民党界隈の核共有論は根が深いことに注意する必要がある。 例えば、2012年から2019年まで安倍内閣の官房副長官補(2014年からは国家安全保障局次長兼務)を務めた兼原信克氏や、2014年から2019年まで自衛官の最高位である統合幕僚長を務めた河野克俊氏も核共有推進論者だ。 河野氏は、公益財団法人国家基本問題研究所のコラム(2022年4月4日付)で、今こそ「核共有」の議論を、と提言している。兼原氏は、2022年7月発行の河野氏との対談本『国難に立ち向かう新国防論』で、「海上自衛隊に核戦略潜水艦隊をつくり、海上自衛隊の潜水艦に米軍クルーとアメリカの核兵器を搭載する」核共有を提唱している。前述の多角的核戦力(MLF)の亡霊のような構想だ。