冷戦期の遺物「核共有」にこだわる石破首相の思考。アメリカは拒否、核不拡散条約違反との批判も
現在、ヨーロッパに配備されて核共有状態にある60発と残りの40発は冷戦初期の発想の遺物なのだ(ギリシャの共有核は2001年に撤去、イギリス配備のアメリカ軍用核爆弾も2008年までに撤去された)。1999年のNATOの「戦略概念」は、ヨーロッパに配備されているアメリカの戦術核兵器は、NATOの「ヨーロッパ側と北アメリカ側の加盟国の間の不可欠の政治的・軍事的リンク」だと述べている。つまり、きずなの証し、象徴というわけだ。
近年、核共有論が脚光を浴びるようになったきっかけは、ロシアによるウクライナ侵攻だった。 侵攻直後の2022年2月27日のフジテレビの番組で、安倍晋三元首相が日本もアメリカの核兵器の「核共有」の導入を検討すべきと発言した。これに呼応して、石破氏も同3月7日のテレビ番組(ABEMA Prime)でやはりロシアのウクライナ侵攻に危機感を示しながら、核共有論を展開した。 前提として、ウクライナが世界第3位の核保有国だったのに核を放棄したから今ロシアに侵略されているという趣旨の主張がされている。
しかし、ウクライナには旧ソ連の核が配備されていただけで、ウクライナが所有していたわけでも、使用できる状態にあったわけでもない。ウクライナがロシアへの搬出を拒んでいれば、ロシアが力ずくで「回収」していた可能性もある。 ■アメリカ政府高官「核共有を望まず」 自民党では、安全保障調査会(会長・小野寺五典元防衛相=当時)が安倍発言から約3週間後の2022年3月16日に核共有問題について勉強会を開いた。 毎日新聞の同日の報道によると、NATOの核共有に詳しい岩間陽子・政策研究大学院大学教授と神保謙・慶応義塾大学教授の講演で、配備された核が最初の攻撃対象となるなどの説明を受け、調査会として、「核共有は日本にはなじまない」との結論に達したという。
また、2023年9月13日、アメリカ訪問中の立憲民主党の泉健太代表(当時)が、前日にキン・モイ国務次官補代理(東アジア・太平洋担当)から「日本と韓国における米国の核共有は非現実〔的〕であり、米国は望んでいない」と伝えられたことを明らかにしている(「米、日本と「核共有」望まず 国務省幹部、泉立民代表に伝達」。時事通信2023年9月14日。化〔〕は筆者が加筆)。軍事的必要性もなく政治的コストが高いからだ。