メスが選ぶのは、強いオスだけなのか? 猫の生態を30年調査した動物学者
■名物教授@西南学院大学
群れない、こびない、自由気まま――。さまざまな魅力で多くの人をとりこにする猫ですが、猫の研究で知られている山根明弘・西南学院大学教授は、意外にも「最初はさほど『猫愛』がなかった」と言います。30年以上もノラネコの生態を調査してきた動物学者の山根教授を研究に駆り立てたものは、一体何だったのでしょうか。 【写真】ケンカをするオス猫同士
山根明弘教授は、「猫を研究したい」と最初から思っていたわけではありません。現在は西南学院大学の人間科学部で「生命科学」や「生命倫理学」などを教えていますが、もともとの専門は動物生態学や遺伝学。「生き物の生き様を明らかにすること」を目的に研究を続けてきました。 「子どもの頃から生物学者になろうと決めていました。きっかけはテレビ番組の『野生の王国』*です。アフリカの大平原で野生動物を追う研究者の姿が、とても格好よく見えたのです」 大学に進んで動物生態学の研究室に入ると、研究はテレビ番組のようにはいかないことに気づきました。遮るものが少ないサバンナなら、遠くからでも野生動物を見つけることができます。しかし山地の多い日本では、動物たちは森林の奥にいて、なかなか目にすることができません。そこで大学院時代の山根さんが研究対象として選んだのが、福岡県の漁師の島で生活する、たくさんのノラネコたちでした。 *1963年から1990年まで放送された、世界各地の動物の生態を扱うドキュメンタリー番組
舞台は玄界灘に浮かぶ相島(あいのしま)。大学院生だった山根さんは、その繁殖行動を調べるため、島に家を借り、約200匹のノラネコを個体識別しながら観察しました。猫の繁殖期は1月から3月にかけて。真冬の海辺や草むらにうずくまり、真っ黒になりながら猫を追いかけたと言います。 「重いカメラとノートを抱えて何時間もじっとしていると、寒風に手がかじかんで、ペンもうまく握れなくなりました。じっと猫を観察しながら、なんで自分はこんなことをしているんだろう、とふと考えることもありました。しかし、同時にふつふつと湧き上がる喜びもありました。ああ、子どもの頃からやりたかったことを、今まさにやっているんだ、と思いました」