不思議と涙を誘われる「漫画家・矢部太郎さん初の大規模展覧会」
「これは僕のお父さんが上の階にあるPLAY! PARKに来たお子さんたちと作った宇宙船です。 子どもの頃はよくお父さんと工作をしていて、それを久しぶりにさせてもらって。なんか作ってるときにお父さんが、僕の耳元でボソッと<懐かしいね>って笑。すごいいい経験させてもらいました」(矢部さん) 宇宙船を作った当日、お父さんのやべみつのりさんは絵本の締め切りに追われ疲れているご様子だったとか。しかし、工作が始まると急に元気になったそうで「目がバキバキでしたね」と微笑ましいエピソードを矢部さんが紹介してくれました。 「4本の柱を牛乳パックで作ったんですけど、組み立てたときに柱の太さや形がバラバラになって、でもそれを見たお父さんは<でべそだ。いいねえ>と言っていて、そういう方から矢部太郎さんのような方が育つんですね」(草刈さん) 「確かに小さい頃からなんでも、いいねって言ったもらっていましたね」(矢部さん)
一本に並んだ漫画が人生のよう
一番大きな部屋は、名作フィクション『大家さんと僕』の展示になっています。空間のポイントを樋笠さんが教えてくれました。 「壁際には入口から出口まで漫画が並び、合間に今回のために矢部さんが描き下ろしたアクリル画が飾られています。 真ん中の円状の机には、漫画の中からクスっと笑えるようなエピソードが厳選して並べられています。天井から吊るされるスクリーンには、『大家さんと僕』の一説を矢部さんが紙芝居で読んだ映像が流れています」(樋笠さん) 今回の展覧会のタイトルは「ふたり」は、企画段階で決まっていたそう。『大家さんと僕』の物語では、2人の会話、関係の深まり、すれ違い...そういったものがリアルにかつやさしく描かれていて、それを展示で表現できないかと草刈さんが持ちかけたそう。
「空間がポップで可愛らしいんですけど、なんだか神聖な感じにもなっていてすごく嬉しいです。僕にとって『大家さんと僕』はそういう作品だから」(矢部さん) 『大家さんと僕』は、アパートの1階に大家のおばあさん、2階には芸人の矢部さんの少し変わった二人暮らしが描かれています。ほっこりとした日常が流れ、時にほろっと泣ける作品として長く愛されています。実在の人物をモデルに描いているからこそ矢部さんには特別な想いがあり、展示の空間の仕上がりを見た感動を語ってくれました。 「一本の道のように物語を読んでいくのは、人生のようにも見える。それに展示に来てくれた方も前に誰かがいたらそれ以上読み進められないから待ったり、一つの物語を何人かで共有するような、家で漫画を読んでいたらなかなかできない体験になるかもしれません。 描き下ろしのアクリル画は、もう一度物語をたどるように描いていったので見てほしいですね。」(矢部さん)