成長続ける日本のGDP、生活実感との乖離なぜ 「悪い物価上昇」で、支払い増えても得られるモノ増えず #くらしと経済
「国全体の名目GDPで日本は来年にもインドに抜かれるといわれています。ただ、2023年の一人当たりの名目GDPで見ると、日本は34位(3万3806米ドル)ですがインドは144位(2500米ドル)と大きな開きがあります。一人当たりGDPは、社会インフラや福祉の充実度といった社会の豊かさ、生活の質の高さを反映しているともいえます」 人口減少社会に転じても一人当たりGDPが増え、経済成長を続けている日本は、国際的にみれば豊かな国の一つといえる。しかし、近年は特に物価高が家計を圧迫している。経済成長を続ける国にいながら、私たちひとりひとりの生活における豊かさは感じられないという、現実と実感の乖離はどうして生まれているのか。 その理由の一つとして、「実質GDPを伴わない、名目GDPの上昇が原因」と小林氏は指摘する。
日本では長らくデフレ状態にあったため、名目GDPも実質GDPもほぼ同じ動きをしていたが、グラフを見るとわかるように、特に2022年後半から、名目GDPだけが大きく伸び、両者の差が大きくなっている。これは、円安や資源価格の高騰が次第に国内にも波及して物価上昇圧力が強まったことで、数量の増加や品質の向上(=実質GDPの増加)を伴わず、コスト負担だけが増えたことを示している。 「物価の上昇には、『良い物価上昇』と『悪い物価上昇』があります。現在の日本の物価上昇は、長く続いた円安や資源高といった輸入物価の高騰が国内にも波及した結果、名目GDPのみが膨らんだ『悪い物価上昇』です。物価が高くなって支払うお金は増えているのに、得られるモノやサービスは増えない、または減っている状態といえます。 一方、本来目指すべきは需要の増加を伴って価格が上昇する『良い物価上昇』。『買いたい』という消費者意欲が強くなると価格に上昇圧力がかかりますが、労働者の給与など使えるお金が増えていることで、販売価格を引き上げても需要の増加が維持されるケースです。この場合、金額ベースの名目GDPの伸びに伴い、数量ベースの実質GDPも伸びて、『需要(支出)』の側面からみるとより多くのお金を支払うようになっていますが、得られるモノやサービスの数や量もそれに応じて増えていきます」 実際、物価上昇で外食を控えたり、旅行の機会を減らしたりするなど、生活防衛のために支出を減らしている人も多いのではないだろうか。個人消費が少ないと、実質GDPは伸び悩む。私たちの行動の変化はGDPの変化にも表れているのだ。