成長続ける日本のGDP、生活実感との乖離なぜ 「悪い物価上昇」で、支払い増えても得られるモノ増えず #くらしと経済
そもそもGDPって?その役割は?
GDPとは、一定期間内に国内で新たに生み出されたモノやサービスの付加価値の合計をさす。一国内で生産されたモノやサービスすべての生産額から、原材料、電気・ガス、輸送サービスなど他の生産者から購入した中間投入額を差し引いた付加価値の合計額、とも言い換えられる。例えば,自動車メーカーの生み出したGDPであれば、完成品の値段から部品や原材料などの中間投入費を引いた部分になる。
GDPには名目値と実質値がある。名目GDPは、対象期間の付加価値の金額をそのまま合計して求めたもので、過去のある一時期と比較してインフレやデフレで物価が上下していたとしても、それをそのまま反映させる。一方、実質GDPは、過去のある一時期と比較してインフレやデフレで物価が上下した場合はその物価変動の影響を除外する。そのため、実質GDPは過去の一時期と比べてモノやサービスの量が増えたか減ったかを知る指標になり「数量ベースの評価」とも呼ばれる。名目GDPは「金額ベースの評価」と言われている。 また、数量に変化がなくても、高級化や高品質化が進むことでもGDPは増加する。先ほどの自動車メーカーの例でいうと、新型車を販売する際に価格が上がったとする。この値上げが部品の値上がり分を販売価格に転嫁しただけであれば名目GDPの増加にとどまるが、新機能を追加した分の値上げであれば、名目GDPだけでなく、実質GDPも増加させる。
一般的に、日本の経済規模がドイツに抜かれて世界4位などと国際比較する場合や、各国の債務をGDP比で示して比較する場合などは、市場で取引されている価格に基づき算出する名目GDPが使われている。他方、国内で一定期間の経済成長率を見る場合などには、物価上昇分を除外した実質GDPが用いられる。このため、名目GDPの値は、実質GDPに比べてより生活やビジネスの実感に近い数字といわれている。
GDPからみる日本の「豊かさ」と「悪い物価上昇」
経済の全体像を把握するためのGDPは、一見すると、私たちひとりひとりの生活とは遠く感じられるかもしれない。私たちの生活は、GDPにどう表れているのか。小林氏に解説してもらった。 例えば、2008年をピークに人口減少社会に転じた日本では、一般的には需要の減少とともにGDPも減っていくと考えられる。しかし2022年中頃まで、日本のGDPは名目・実質とも増加傾向にあった。 小林氏によると、これは、「我々が消費しているモノやサービスの『量』自体は増えておらず、長くデフレ状態にあった日本では価格もあまり上がっていないが、『質』が向上しているため」という。「より高度な医療や安全性の高い車、性能の高いスマホなど、人口が減って全体として必要な量が減っても、より高級な(付加価値の高い)商品やサービスが増えて一人当たりのGDPが増えれば、国全体のGDPも増えていきます」 国全体のGDPを国民の数で割った一人当たりのGDPは、その国・地域に住む人々の平均的な豊かさを表す一つの指標として、国同士の比較によく使われる。一人当たりの名目GDPで常に上位にいるルクセンブルク、アイルランド、スイスは、いずれも人口は少ないが、金融業や化学・製薬業、情報通信産業など付加価値の高い産業が集中していることが特徴だ。