36年目シーズンを始動した53歳の三浦知良はなぜ映画「男はつらいよ」シリーズをキャンプ宿舎に持ち込んでいるのか?
自主トレをこう振り返ったカズは新型コロナウイルス感染予防対策の観点に立って、沖縄で宿泊するホテルを選んだ。トレーニングと同じく重要視している、摂取カロリーが完璧に計算された一日三度の食事でも、ホテル側がすべての要望に応えてくれたとカズは心から感謝する。 「(同行した)調理師が料理する厨房も完全に貸してくれただけでなく、厨房の横にある部屋も僕たちが借り切る形にしてくれて、そこでずっと朝昼晩と食べることができました。ホテルとスタジアムの距離の近さもそうですけど、食事をするときの環境がすごく重要になると考えていたので」 グアムでは毎朝5時半に起床し、6時からの5km走で一日をスタートさせた。朝食後の9時半から午前練習、昼食と休憩後の15時からウエートトレーニングを中心とした午後練習を消化。夕食後の21時に就寝するサイクルがひたすら繰り返される日々に、昨年初めて参加したFW瀬沼優司(現ツエーゲン金沢)は「死んだ」と自身のインスタグラム(@senumayuji_official)に投稿している。 「カズさんは偉大。そして自分の弱さを痛感したキャンプになりました」 一転して沖縄では早朝の5km走を取りやめ、午前中のメニューにインターバル走を導入した。例えば心拍数を160まで上げた直後から歩き、心拍数が135にまで落ちるのを待って再び走り始める。これを20分から30分にわたって繰り返すメニューの意図をカズはこう説明した。 「沖縄でも朝に走ろうと思えば走れましたけど、あえて練習量を減らして逆に質を上げるようにしました。サッカーの試合も走った後にジョギングになり、今度は歩いたりする動きの繰り返しじゃないですか。同じ有酸素運動でも一番効率のいいやり方に、サッカーに一番合っている(心拍数の)上げ下げのあるものに、フィジカルコーチと相談しながら変えました」 自主トレで練習量を抑え気味にした背景には、昨年のグアムの最終日に左臀部に痛みを訴えて出遅れたまま、シーズンが新型コロナウイルスの感染拡大による長期中断に入った苦い経験がある。情熱をたぎらせながらも、年齢をひとつ積み重ねる身体との対話も忘れていない。 昨年と変わっていない点もある。故・渥美清さんがテキ屋の車寅次郎を演じ、国民的な人気を博した映画シリーズ『男はつらいよ』を、昨年に続いて和歌山キャンプにもちこんで堪能している。 「このコロナ禍のギスギスしているときに、寅さんだったらどのように言うのかな、いまの世の中の出来事をどのようにとらえるのかなと思いながら、沖縄にいるときからもう一度見返しています。寅さんの教えですか? いい言葉がいろいろとあるので、みなさんも見てください」