3.11東日本大震災から10年…釜石で被災した神戸の菊池流帆が起死回生のJ1初ゴールを刻んだ意義
最初は部活動特待での推薦入学を志すもセレクションで落ち、それでもあきらめずに一般入試で合格。サッカー部内で最も下に位置するDチームからはい上がり、3年時には夏のインターハイでベスト4へ進出し、初戦敗退ながら最初で最後となった冬の全国高校サッカー選手権のピッチにも立った。 何よりも高校3年間では、いま現在につながるターニングポイントを自ら手繰り寄せている。下手くそぶりを認め、それまでのサイドハーフからセンターバックへのコンバートを志願。唯一の武器だと自任していたヘディングを、これでもかと徹底して磨きあげる日々にあてた。 身長188cm体重80kgの堂々たるサイズを誇る菊池へ、神戸を率いる三浦淳寛監督も「空中戦には絶対的な自信をもっていますよね」と、J1でも屈指のエアバトラーだと目を細める。大阪体育大学時代から無意識のうちに発するようになった、ヘディングをする刹那の「よっしゃぁーーーーーっ」という大音量の叫び声を介して、神戸全体の士気を鼓舞するムードメーカーも担っている。 大学卒業後の2019シーズンは唯一、オファーを受けたJ2のレノファ山口へ加入。ルーキーながら35試合に出場し、自慢のヘディングで勝負した姿を見初められて昨シーズンに神戸へ移籍した。ベスト4へ進出したACLを含めて、後半戦から最終ラインに定着した生き様を自らこう表現する。 「苦しいときに歯を食いしばってプレーできる選手の代表として、僕がいると思っている」 毎オフに帰郷してきたなかで、釜石市が輩出した初めてのJリーガーは、このオフは歓迎のされ方が変わったと感じていた。アンドレス・イニエスタと同じピッチでプレーした雑草男は雄々しいオーラを放つ英雄となり、何度も「すごく活躍していたね」と声をかけられた。 「もちろん嬉しかったけど、まだまだ満足なんてできない。ここからもっと、もっと試合に出て活躍したいし、その意味ではやっとスタートラインに立てたと思っています」 毎年3月11日が近づくたびに釜石市へ特別な思いを捧げてきたなかで、震災発生から10年の節目となる今年に、プロ選手のキャリアのなかで語り継がれる待望のJ1初ゴールを届けられた。それも見ている側の心を震わせる、不格好でも泥臭く、執念と魂をほとばしらせる形でねじ込んだ。 「自分としても最大限の活躍をしていきたいという気持ちと、僕の姿を見て喜んでくれる人がいれば、という気持ちの両方があります。復興が進んできているなかで、地元に帰ったときにはまだまだ大変な方々も見てきました。だからこそ精いっぱいプレーしていくのが、自分の務めだと思っています」
自ら課題にあげてきたパスの精度を含めたビルドアップ能力を含めて、現在進行形で日々進歩していると信じて疑わないからこそ、大きな夢を胸中に描いている。 「日本代表に入ることが、今年の個人的な目標です」 入りたいと願うのではなく、強い思いが夢を成就させると信じながら、過去にユニバーシアード代表にしか縁のなかったファイターは日本代表に「入る」と言い切る。昨シーズン2位のガンバ大阪からもぎ取った完封勝ちに貢献した開幕戦に続いて、敵地での引き分けを手繰り寄せたヒーローは、神戸が逆境に直面したときに誰よりもまばゆい輝きを放ちながら成長を続けていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)