世界注目の哲学者「AIの内部は回路と電流だけ」…全知全能AIは「知能がなく思考もしていない」と断言する理由
生成AI全盛の時代、人間にしかできない思考とは何か。そもそも、人類は何のために生まれてきたのだろうか。ベストセラー『なぜ世界は存在しないのか』の著者で、今世界でもっとも注目を浴びている哲学者に聞いた──。 【画像】マルクス・ガブリエル氏 ■本質をつかむ天才的な思考の全容 「あなたは生まれながらの天才だ」。幾度もそう言われてきました。私は物心ついたときから、目に映るあらゆるものの仕組みを知りたがりました。ハイハイしているときも、行き先を妨げるものがあれば、それが何なのか、どうすれば乗り越えられるかを考えて試行錯誤していました。記憶をどんなに古くさかのぼっても、私のなかには「物事の本質は何なのか」という哲学的思考が常にあったと思います。 4歳のとき、独学で読み書きを覚え、思考の対象は文字の世界にも広がりました。小学校に入る頃には周囲との差は歴然としていました。私の家は学問に縁のない労働者階級でしたので、両親は「変わった子だ」と思っていたようです。 幸運だったのは、私がドイツに生まれたことです。哲学の先進国であるドイツでは、非常に早い段階で子どもの論理的思考力を見抜き、伸ばしてくれます。おかげで、私は自然と哲学の道に進むことができました。 ひととおりの課程を修了し、アメリカのニュースクール大学で教鞭をとることになるのですが、着任して3カ月たった頃、ドイツのボン大学から教授職のオファーを受けました。当時私はまだ29歳で、史上最年少のことでした。すると今度はニュースクール大学が、終身教授職のオファーを出してきました。私を手放したくないからだったようですが、これも大学史上最速のことでした。最終的に、私はドイツに戻ることを決めて現在に至ります。 哲学を知ろうとすると、古代ギリシャ語やラテン語はもちろん、私にとっては古代ヘブライ語や、さまざまな現代言語も必要でした。今は7カ国語以上を使いこなしています。だからでしょう、「どの言語で思考しているのか?」とたびたび尋ねられます。 これについては、「主題をつかんで離すな。言葉が後に続くだろう」というラテン語の格言がありますが、まさにそのとおりです。言語領域のなかで私が何かを考えることはありません。私の応答が瞬間的に見えたとしても、まず先に思考があり、その後に言葉を紡いでいます。思考と会話は直接つながっていて、間に別の言語が介在することはありません。 ではいったい私は、どうやって思考しているのでしょうか。全容を明かしてみましょう。まず、思考を始めると、心の中にクリスタル結晶のような論理構造が現れます。目に見えないクリスタルを想像してください。思考はこの結晶ネットワークをめぐる論理の旅です。ある場所に到着すれば、言語が、その位置を表現し、その位置から見た論理構造を説明します。 もし、私が論理的な破綻(はたん)を察知すると大変です。結晶ネットワーク全体がすぐさま反応して、「混乱を取り除け」と指令を出してきます。論理的な混乱は存在してはならず、常に取り除かねばならないのです。実のところ、仕事のほとんど、時間のほとんどを、こうした混乱を解消することに費やしています。論理的な一貫性が最高レベルに達していないものは「悪」としか言いようがありません。 すべてにおいて大事なのは論理的な一貫性です。そのためなら、既成概念や既存学問に反抗することは、どうということはありません。哲学界の古典派からは、それはもう、すさまじく敵視されます。だから、私は「哲学界のロックスター」という異名で呼ばれるのでしょうね。以前、ドイツの新聞が私のことを「ドイツ哲学のエミネム」と書きました。あの、ヒップホップ界の常識を覆したラッパー・エミネムですよ? 内心、このニックネームはお気に入りです。