選択的夫婦別姓も同性婚も認められないこの国は、一体なにに怯えているのか。結婚をめぐる問題をエンターテインメントでくるんだ話題作【古内一絵インタビュー】
スイーツは、特別な祝福とともにある
――結婚に際して直面する問題を描くと同時に、前作同様、スイーツの描写にも力が入っています。今回は、達也が涼音とともに新しいパティスリーを立ち上げますが、執筆にあたって取材をされたのでしょうか。
古内:前回に引き続き、鎌倉の人気パティスリーのシェフ・パティシエールに取材させていただきました。そのお話がとても面白くて。普通、ホールケーキは偶数に切り分けますよね。ですが、ウエディングケーキは偶数で割り切れないように作るのだそう。奇数に分けられるようにデザインして、絞り飾りも絶対に偶数にしないと伺い、「そこまで気を遣うんだ」と驚きました。 前作にも書きましたが、お菓子の歴史って面白いんですよね。お菓子は、食事と違って必要不可欠なものではありません。ですが、西洋、東洋どちらのお菓子も、歴史をたどると宗教が関わってくるんですね。修道院やお寺で作ったお菓子が、レシピとともに広がっていく。実際、日本でもお彼岸におはぎやぼたもちを、雛祭りには雛あられを食べますよね。お菓子は、特別な祝福、神や仏のご加護とともにあるものなんです。今でも、私たちはうれしいことがあった時や何かのごほうびに、甘いものを食べます。お菓子に関する興味はまだまだ尽きないので、次もスイーツに関する小説の準備をしています。 ――この作品の手ごたえはいかがでしょう。『最高のアフタヌーンティーの作り方』を書き終えた時は、「続編を書けそうだ」と思ったそうですが、シリーズ第3弾もあり得るのでしょうか。 古内:これに関しては、この2作で終わりだと思います。でも、『最高のウエディングケーキの作り方』は、本当に書けてよかった。政治家も、選択的夫婦別姓制度に前向きに取り組むと言っていたのに、また慎重な姿勢に戻っているじゃないですか。本当にいい加減にしてくれと思いますね。ぜひ、この小説を皆さんに読んでもらい、話し合うきっかけにしてください。エンターテインメントとして楽しめるように書いていますので、身構えずに読んでいただけたらうれしいです。