選択的夫婦別姓も同性婚も認められないこの国は、一体なにに怯えているのか。結婚をめぐる問題をエンターテインメントでくるんだ話題作【古内一絵インタビュー】
我慢を重ねてきた世代は、苦労を免れた若手を許せるか
――『最高のウエディングケーキの作り方』は、章ごとに30代の涼音、20代の瑠璃、40代の香織、30代の達也など視点人物が移り変わっていきます。さまざまな視点から、結婚やジェンダー、LGBTQについて考えられるようになっていますね。
古内:小説って、すごく不思議なんですよね。『最高のアフタヌーンティーの作り方』を描いている時は、続編のことなんて考えていませんでした。でも、登場人物が動き出すと物語の続きができてきて、全員が役回りを果たしてくれます。登場人物に引っ張られながら書いているという感覚があります。 今回は、誰のためにウエディングケーキを作るのかにも注目していただきたいです。前作をお読みになった方は、達也と涼音のウエディングケーキだと思うかもしれませんが、さてどうでしょう。 ――涼音は、達也との結婚を控えて夫婦同姓を義務づけられることに疑問を抱きます。その気持ちもわかりますが、40代の香織の言動も身につまされました。キャリアを重ね、40代で出産した香織は、いわゆる優等生タイプ。年かさの男性たちを立て、既製のルールを守ることで、今のポジションを築いてきました。そのため変化を恐れ、涼音にも周囲と歩調を合わせて夫婦同姓にするよう助言します。古内さんは、どのような思いで香織を描きましたか? 古内:香織さんは、涼音と同じホテルでラウンジのチーフを務めていました。でも、産休・育休を取って職場を離れたら、自分はただの“高齢出産者”だと感じてしまいます。だから、ラウンジのチーフという地位を護りたくて、意固地になってしまうんです。優秀な人ほど、護らなければならないものが多くなるので大変ですよね。 ――香織は、涼音にとって憧れの先輩でした。ですが、そんな香織も涼音世代の考え方を受け入れられないというのがリアルでした。 古内:香織さんは、我慢を重ねてきた世代です。自分がしてきた苦労を、若い世代が免れるのは許せなくて忸怩たる思いを抱えています。でも、「私たちは苦労してきたんだから」と若い世代に不自由を押しつけたところで、誰も幸せになれませんよね。そこで「良き先達になろう」と気持ちを切り替えていきます。 そこには、私自身の経験も反映されています。私は、男女雇用機会均等法が施行されて間もない平成元年に社会に出ました。就職先は映画会社で、総合職の女性を採用したのは初めて。ですから、女性の先輩がたからはとても嫌がられました。それもそうですよね。先輩がたは、男女雇用機会均等法が制定される前から、ものすごく努力して総合職になったわけですから。実際、総合職には語学堪能でスキルも高いスーパーウーマンがそろっていました。 その一方で、私たち世代は大学を卒業し、何の苦労もないまま制度によって総合職になりました。中にはかわいがってくださる先輩もいましたが、風当たりは強く、ひどく虐められたこともありました。このあたりは『キネマトグラフィカ』(古内一絵/東京創元社)に書いたので、ぜひ読んでください(笑)。