なぜタイへ? 経験生かし教師やオーケストラ支援 シニアたちの「第二の人生」とは
■現在のタイでの生活は?
タイ在住の日本人は約7万2000人。近年、永住権を取得する日本人が増加しています。 去年、定年を迎え夫婦でタイに移住した高橋敬子さん(63)。35平米1LDKの家賃は、およそ9万円。一年中入れるプールも備えられています。 高橋さん 「元気ですか~?」 移住を後押ししたのが、インターネットなどで日本の家族、知人、情報とつながったままでいられることだといいます。現在のタイでの生活は?シニアの皆さんの食事会で聞いてみると、次のような声が上がりました。 タイに移住した女性(73) 「日本料理店の(数は)日本並みね。回転寿司店がいっぱいできてるんですよ」 近年の日本ブームで日本の食事や食材などに不自由しなくなったといいます。 タイに移住した女性(69) 「四季が無いというのはつまらないですけど、現実的な生活のしやすさは大きい」 一方で、円安と物価高で、以前より「割安感は減っている」という声も上がりました。 タイに移住した男性(69) 「円安になっていますので。暮らしはそんなに楽ではない」
■証券会社役員から「ベンジャロン焼き」販売へ
そんなシニアの皆さんが2週間に一度訪れているのが、バンコクにある女子高校です。 高橋さん 「これおいしいですか?」 生徒 「おいしいです!」 高橋さん 「これはいくらですか?」 生徒 「500円です」 高橋さん 「500円ですか?」 生徒 「はい」 日本のシニアが女子高生たちにボランティアで日本語を教えています。 生徒 「将来、日本で働くことが夢なの」 「日本語が大好きです。そしてイケメンがめっちゃ大好き」 高橋さん 「日本語ボランティアは楽しいですよね」 タイに移住した女性(59) 「生徒に元気をもらえる」 「リタイアしてタイに来て、ウキウキしているのは1カ月くらいで。だから何かしないと」 今年3月タイに移住したばかりの野村学さん(59)。この日はある物の売り込みのため営業先へ向かいました。 実は野村さんは数々の証券会社の役員を務めてきましたが、その地位を捨てタイへ。その理由がタイで600年の歴史がある陶磁器「ベンジャロン焼き」です。 野村さん 「こんなの持ってきましたけど。絵皿」 野村さんはこの販売を行っています。妻や娘たちを日本に残しての単身赴任。しかも、数千万円もあったという年収は激減しました。 野村さん 「(年収は)一番高かった時と比べると20分の1以下ですね」 さらに今暮らしている部屋は6畳一間です。 野村さん 「東京の暮らしから考えると劣悪ですけどね」 なぜ日本人がタイの伝統工芸を?実は45年前、野村さんの両親はベンジャロン焼きを世界に広めようとタイで店を開きました。 当時、小学生だった野村さんは祖母の家に預けられます。その後、父親が亡くなり、母の黎子さんがタイの店を継ぎますが…。 野村さん 「元気に見えますけど、83歳なんで。最後はきちっと(母を)サポートした方がいいかなと」 黎子さん 「安心しました」 野村さんがタイに来て改めて気付いたのが「ベンジャロン焼き」の美しさです。 野村さん 「(ベンジャロン焼きは)この国にとってすごく大事な財産だと思っているので、底上げしたり広げていくことに一役担えるのはとても意味がある」 今までの経験を生かし、まず始めたのはSNSを活用したPR。そして発信力のある若い世代に向けた「絵付け体験」です。 タイ在住の女性 「すごい楽しかったです」 「焼き上がりが楽しみです」 そして石川県の伝統工芸「九谷焼」とのコラボ「ベンジャロンワイングラス」を開発。現在「予約待ち」という人気商品になりました。 野村さんがタイに来てわずか半年。店の売り上げは2倍になりました。一方で深刻な問題なのが、絵付け師の高齢化による後継者問題。そこで野村さんは、貧しい地域の子どもたちに、ベンジャロン焼きの新しい模様を募るプロジェクト始め、賛同者も集まりました。 野村さん 「子どもたちからデザインを募集して、良いものをマグカップにして商品化して、収益を恵まれない子どもたちや学校に返していきましょうという」 チャリティーと同時に将来の絵付け師を探し出す狙いです。 野村さん 「タイのためになる仕事ができるというのは、やりがいがすごくある」