久遠チョコレートの奇跡~20年の格闘の物語
「小倉昌男さんという経営者が大好きで、『小倉昌男の福祉革命』という本に『平均月給1万円からの脱出』とあって、『えっ』と思いました」(夏目) 夏目は、障害者の月給がわずか1万円であるという事実に衝撃を受けた。 「障害者が働く場所がないということで、ほとんどが福祉事業所に行って働いても、1カ月1万円ぐらい。それを小倉さんが『経営の力を使って変えていこう』と」(夏目) 多くの障害者は、就労支援施設で作業を行い、時間や出来高に応じて工賃を受け取るが、平均月収は現在でも全国平均で1万6507円(厚生労働省)だ。実情を知った夏目は、「スワンベーカリー」を自分も手がけられないかと、小倉に何通も手紙を出し続けた。 すると半年後、面会ができるという知らせが。憧れの経営者・小倉昌男を目の前にして、夏目は早速、準備した名刺を差し出した。すると、夏目の名刺を見た小倉は、「会社名が書いてないが、どんな事業を手掛けているのか」と尋ねた。「まだ何も…僕一人です」と答えたところ、小倉の顔色は、一変した。 「『僕一人です』と言ったら、その名刺をさっと引いて名刺交換してくれなくて……。『帰りなさい、経営はそんな甘いものではない』と。頭が真っ白になりました」(夏目) 夏目は一念発起し、2003年、自ら豊橋市内にベーカリー「花園パン工房ラ・バルカ」を開業。障害者3人を雇用して商売を始めた。夏目は障害者に最低賃金を保障し、10年以上悪戦苦闘する。しかし、借金は増え続け、結果は出せなかった。
そんな中で出会ったのが有名ショコラティエの野口和男さんだった。初めて見るチョコレート作りの現場で、野口さんの言葉に夏目は閃いた。 「パン作りは100°C以上でやる。チョコレートはどんなに高温でも作業する時は30°C。子どもたちもやけどをしない。『障害者に向いているのではないか』と、彼はピンときた」(野口さん) 「野口さんが『正しい技術を正しく作ればチョコレートは化学できる。誰だってうまいものを作れるよ』と。複雑な技術があるわけではなく、ハイブランドのチョコレートができる」(夏目) ひとつひとつの作業が単純なチョコレートなら、製造工程を細分化すれば、障害者にも高度な商品を作ることができる。2014年、久遠チョコレートは誕生した。