なぜ山梨学院は11年ぶりの高校サッカー頂点に輝いたのか…センターバック封じの秘策
ゴールラインとペナルティーマークとを結ぶ、約11mの空間に特別な思いが交錯する。山梨学院(山梨)のキャプテン、GK熊倉匠(3年)が視線を下に落としながら構えれば、青森山田(青森)の2番手キッカー、MF安斎颯馬(3年)は10秒も目を閉じて極限まで集中力を高めた。 決着がついた瞬間に優勝校と準優勝校が決まる、天国と地獄を残酷なまでに分け隔てるPK戦。ボールの1mほど手前で助走を止め、ひと呼吸置いて小刻みなステップを踏む安斎が右隅へ放った一撃を読み切り、完璧にセーブした守護神の雄叫びが勝利の女神を山梨学院に振り向かせた。 新型コロナウイルスが猛威を振るう首都圏の1都3県に緊急事態宣言が再発令されたなかで、準決勝に続いて無観客の埼玉スタジアムで行われた11日の第99回全国高校サッカー選手権大会決勝。ともに2ゴールずつを奪い合う白熱の攻防は、延長戦を含めた110分間を終えても決着がつかず、もつれ込んだPK戦を4-2で制した山梨学院が11年ぶり2度目の全国制覇を勝ち取った。 「総合的なチーム力を比べれば、山田さんは10回戦って1回か2回勝てれば、というぐらいの相手なので。その1回が今日来るように、上手くいけばと思ってかなり考えて、準備して臨みました」 初出場で初優勝した2009年度の第88回大会と同じ顔合わせとなった決勝を再び制し、全国3962校の頂点に立った余韻が色濃く漂う試合後のオンライン会見。就任2年目の長谷川大監督(47)が明かした秘策が、準決勝までの4試合で15ゴールをあげた青森山田のリズムを大きく狂わせた。 前半開始直後から青森山田のキャプテン、センターバックの藤原優大(3年)を、優勝候補の昌平(埼玉)を撃破した準々決勝で千金の決勝ゴールをあげたFW久保壮輝(3年)にマンマークさせた。 相手のエースストライカーではなく、最終ラインを束ねるセンターバックの自由を奪う。奇想天外な作戦は神奈川大学監督時代の成功体験から導かれたものだった。 「早稲田大学と対戦したときに、縦パスやサイドチェンジ、ゲームコントロール、声出しが素晴らしいビルドアッパーがいて、その選手を抑え込むために考えた作戦でした。山田さんの(攻撃の)出発点は藤原君なので、ならば彼にまったくボールを触らせないようにしよう、と」 試合の流れのなかから、青森山田の攻撃の起点を消し去る。卒業後の浦和レッズ加入が内定している藤原が試合後に残した言葉を聞けば、指揮官の狙いが奏功していたことがわかる。 「斬新というか、何て言うか。どうすればいいのか、なかなか頭が回らなかった」