「自傷行為を止めるため」刺青を彫り続けた女性が、「舌先を2つに割った」ときに立てた誓い
リストカット痕を消すために刺青を入れた
その後、24歳で妊娠と出産を経験。配偶者とはその後、離婚した。現在ゴメスさんの身体を覆う刺青を最初に入れたのは、27歳のときだったという。 「きっかけは、小学生のときから続いているリストカット痕を消すためでした。カバータトゥーというやつですね。家庭環境が苦しかった私は、小学生のときから自傷行為を繰り返していました。小学5年生のときは、筋繊維を傷つけてしまい、救急車を呼ぶ事態になりました。しばらくは、傷つけすぎて洗濯板のようになった自らの皮膚について誤魔化しながら生きてきたのですが、やはり自傷行為を止めようと考えて刺青を彫ることにしました。彫ってもらったその日から、私の皮膚は尊敬しているタトゥーアーティストの方の作品になるので、それを傷つけることはしないだろうと思ったんです。結果的に、奏功しました」 刺青を宿すことによって、ゴメスさんは自傷行為から解放された。また、人体改造にも目覚めた。 「身体のなかで気に入っているのは、『マイクロダーマルインプラント』と呼ばれる、埋込式のピアスでしょうか。それから、世間では嫌われる“2枚舌”であるスプリットタンにすることで、『自分は人に対して不誠実な対応をしない』という逆の誓いを得ました。また、さまざまな刺青を入れてきましたが、珍しがられるのは腋に入れた刺青ですね。腋という普段見せない場所に大きな目玉を彫ったんです。誰も見ていないと思っていても、必ず見られているという教訓を体現したものです」
母は「愛情の示し方がわからなかったのではないか」
今年、再婚相手との間に子どもが生まれたばかりだというゴメスさん。精神障害者保健福祉手帳を持つ彼女には、継続した養育が困難だった時期があり、現在は児童相談所に預けている。だが近日中に、一時帰宅の目処が立っているのだと嬉しそうに話す。 「私の母も愛してくれていたんだとは思います。実際に、愛情を感じた場面もあります。ただ、いろいろな状況のなかでその正しい示し方がわからなかったのではないかと感じます。私の子ども時代は、どんなときも母を愛していました。両親の“反省点”も含めて、私は私なりの子育てをしようと思えました。その点はポジティブにとらえています」 家族という密室空間が常に緊迫し、安心できない場所になれば、行き場のないフラストレーションが身体を蝕むこともあるだろう。暴力の方向を自らに向け、流れ出る血液でしか生を実感できないこともあるかもしれない。 ゴメスさんは荒野を生き抜いた。だがその荒野を指さして彼女は言う。「優しさがまったくない場所というわけでもなかったんです」と。おそらくその真偽を問うことに意味はない。ひとりの女性が世界を憎まずに生きたいと願った結果、捉え直した世界にこそ、意味がある。 <取材・文/黒島暁生> 【黒島暁生】 ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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