鮨職人・幸後綿衣「鮨って“人間性”が出る。そこが厳しくて、おもしろいところです」
自分の鮨で、一人でも多くの人に幸せを感じてもらいたい
── 女性の鮨職人は増えていますが、大将は珍しい。その点、ご苦労もあるのでは? 幸後 女性鮨職人ということで興味を持っていただけることがある反面、女性だから嫌だという人もいるでしょうね。でも、私は鮨職人としておいしいものを出して、お客様に幸せを感じてもらえればいいので、気にしないです。 接待などで、初めてここにいらしたお客様が、私がカウンターにいることで、「女性? 大丈夫なの?」って思われるというリスクはあります。いわゆる“おっちゃん”がカウンターに立っていたら、何の違和感もないはずなのに、女性なら、出す鮨まで気になるとか。そういうお客様の印象を、帰る時までに、いかにひっくり返せるか。そこは頑張りどころですよね。
── 逆に、女性鮨職人の方が、気持ちが和らぐ人もいるかもしれませんよね。 幸後 この店は、特に、やわらかい空気感の中で食事をしてもらうことを意識していますしね。私のテンションも自然体で、楽しく仕事をすることで、お客様にもリラックスしてもらいたいと思っています。鮨のクオリティは厳しく追求していますが、お店の雰囲気はやわらかく、ですね。 ── 女性鮨職人の後進にも、大きく道を開かれた形になりすね。 幸後 ここ数年で、鮨職人が女性の専門職の選択肢に入ってきた、ということは感じます。この店にも実際に、修業に入っている女性がいます。彼女たちが、どんな鮨職人になりたいのか、どこまでのスキルを身につけたいのかによりますが、これから鮨を握って生きていこうと思っているなら、私ができることはしたいですよね。
また、この店は、8席を2回転する営業なので、1日に幸せにできるお客様は16人です。その人数を増やそうと思ったら、彼女たちに成長していってもらうしかない。自分が立つカウンターの仕事は怠りたくないし、 修業に入った人たちに教えてもあげたいし、と思うと、毎日時間が足りないですね。 ── プライベートの時間は、まったくなさそうですね。 幸後 四六時中、鮨のことを考えていますし、休みの日も、地方に新しい仕入れ先を探しに行ったりしていますからね。でも、この世界に入った時から「プライベートは、別にいらないや」と思っていましたし、現在は仕事とプライベートの境があまりないです。どちらも趣味に没頭しているような。 今は自分のお店を持って責任を感じる事は多いですけれど、楽しいですよ。