鮨職人・幸後綿衣「鮨って“人間性”が出る。そこが厳しくて、おもしろいところです」
最終的には「私が提供したいベストなものって何だろう」を意識的に探すようになっていました。味、使う魚、それを提供する空間など、自分が本当にいいと思ったものにフォーカスしたい。そんな思いが強くなって、独立を決意しました。幸いにも、新井さんもお客様も応援してくれたので、ありがたかったですね。
お店は「実家のようにくつろげる空間」がコンセプト
── ご自身の「鮨 めい乃」は、どんなお店ですか? 幸後 私の原点は、食べることが好きな家族に囲まれて育った実家です。だからお店も、実家で食事をしているようにリラックスできて、ここで過ごした時間が幸せだったと思ってもらえるような空間づくりを意識しています。それもあって、椅子は実家のソファと同じ色の、白と黄色のものにしています。あと私自身、キチキチっとした角の多い空間が苦手なので、カウンターや天井など、なるべく角を減らしています。キリッとしたカウンターで、緊張感のあるお店も素敵だと思いますが、私は緩やかでゆったりした雰囲気にしたいと思ったので。 ── 鮨そのものには、どんな幸後さんらしさがありますか? 幸後 食材は、自分の中でベストだと思うものを揃える、という意志を強く持っています。魚は、産地や漁法、香りのトーンを重視して選んでいます。シャリの米は、滋賀県の針江のんきぃふぁーむさんが作っている「滋賀旭」。鮨が生まれた江戸時代からある、原種に近いお米です。現代の「米そのものがおいしい、甘い」というのと逆のバランスで、かえって素材のポテンシャルを高めてくれるし、あと米の香りがいいんです。
私は、とびきりいい魚を仕入れたら、手を加えるのは最小限にして、素材そのものを生かしたい。米も香りがよいので、シャリ酢や塩は最小限です。ミニマルなバランスで最上の味を狙っているんです。 いろいろ手を加えると、その時はおいしいけれど、後で疲れることがある。それよりも食後感は軽くて、翌朝に「昨日のお寿司はおいしかったな」と思えるような。 ── 今後、お店をどうしていきたいですか? 幸後 このお店をより素敵な場所にし、素敵な料理を出せるようにすることに注力していきたい。そのためには、私自身が素敵な人間性になることが大事なので、今後もいろいろな人生経験を積み重ねていきたいと思います。