2023年に Amazon が流通を阻止した偽造品は700万点も、増え続ける偽造品に対策は限界
テクノロジーへの投資は「焼け石に水」?
昨年には、マーケットプレイスに販売者の身元と銀行口座情報の確認を義務付けるインフォーム法(INFORM Act)がやや不安定な形ではあるが施行された。ダラ・ヴァル氏によると、Amazonはこの法律を「遵守するための強力なプラットフォーム」を構築しつつあり、今後の販売希望者をできるだけ迅速に審査することを目指しているという。このような取り組みの結果、70万件のアカウント作成が阻止されている。 「当社はテクノロジーの革新を続けている。テクノロジーには間違いなく投資し続ける」と同氏は話した。 しかしそのような取り組みは、問題全体に比べれば焼け石に水かもしれない。 ミシガン州立大学の偽造品防止・製品保護センター(Center for Anti-Counterfeiting and Product Protection、A-CAPP)教授兼研究者であるサリーム・アルハバシュ氏は、全体的な偽造品の規模とその全容を把握するのは不可能だと語る。しかし同センターの最新の調査によると、10人中7人が偽造品を購入した経験があるという。 「デジタルメディアやeコマース、ソーシャルコマースのプラットフォームが普及したことで、この問題は巨大化して食い止められなくなっている」とアルハバシュ氏は話す。「プラットフォームが事態を把握する頃には、偽造品業者はすでにその先をいっている」。
ブランドへの危害を避ける
家庭用収納用品メーカーのハニーキャンドゥインターナショナル(Honey-Can-Do International、以下ハニーキャンドゥ)でCEOを務めるスティーブ・グリーンスポン氏は、同社にとって偽造品は根深い問題だと語る。同社の商品であると名乗る偽造品が出回っていたり、一見同じように見える商品が違うブランド名で販売されていたりするのだ。 「購入者は、ハニーキャンドゥの商品や、聞いたことがあり信頼できるブランドの商品を手に入れたと思っている。しかし実際はそうではなく、完全なコピー商品を買っている。そしてほとんどの場合、それは悪質な偽造品だ」。 ハニーキャンドゥはサードパーティベンダーを雇い、マーケットプレイスで偽造品を探し出しては削除を依頼している。年間支出は余分にかかるものの、自社ブランドの評判を確保してくれる人を雇う価値はあるとグリーンスポン氏は言う。 ダラ・ヴァル氏はAmazonが偽造品の申し立てに対応するまでに平均でどれほどの時間がかかるかについては明言できないという。また、侵害の懸念からどれだけの出品が削除されているのかについても言及できなかった。しかしその理由は、Amazonの独自ツールが偽造品の可能性を常に監視しており、誰かが新たに出品したりページを変更したりするたびにそれが起動されるからだという。 「これは、目には見えない多くの努力だ。ストアをくまなく調査し、そしてストア内で起きているすべての変化を徹底的に把握することで、偽造品の可能性がある商品を積極的に削除している」。 リスクコンサルティング会社であるK2-インテグリティ(K2-Integrity)のシニアマネージングディレクター兼調査ディレクターを務めるブライアン・カール氏は、偽造品の被害はブランドの(イメージに対する)懸念だけにとどまらない場合があると指摘する。 カール氏は医療・健康商品に関連する偽造品問題の調査を専門にしている。この分野では安全性や無菌ではない可能性のある商品によって、人体へ危害が及ぶリスクが高まる。同氏は、偽造されている疑いのあるブランドはただちに弁護士やコンサルティンググループ、法執行機関に連絡して措置を講じるのが最善であると話した。 「(ブランドが)相手にしているのは、ただ1つのこと、そのことしか考えていない連中だ。それは金儲けだ。(偽造品業者は)人に被害を及ぼすことなど気にしてはいない」。 法執行機関や捜査当局が偽造品業者に先んじるのは難しいものの、Amazonが偽造品やその販売業者をプラットフォームから排除することは思われているよりも大きな意味を持つとカール氏は言う。偽造品業者は、偽造品の販売で利益が得られないと事業を続けられないことが多いからだ。しかし、そのような偽造品業者は、新たに別の不正アカウントを作ったり、別の方法で顧客にリーチして偽造品を売ろうしたりするかもしれない。 「状況は常に変化している」とカール氏は話す。「こちらが賢くなればなるほど、悪人らも賢くなるのだ」。