高齢者置き去り? 「ITオンチな利用客」が直面する路線バスデジタル化、専門家が警鐘する現実とは
アナログ有料化の危険性
DXの加速を目指し、アナログ対応の有料化を提案する声もある。しかし、デジタルデバイドの影響を強く受けているのは、現役世代よりもむしろ、 ・年金生活を送る高齢者 ・所得が低い層 である。アナログ対応の有料化は、経済的に困難な人たちをさらに追い込む結果になりかねない。デジタル対応が難しい状況にある彼らにとって、そのための費用負担が社会参加の大きな障壁となる。 確かに、有料化によってIT利用者を強制的に増やす狙いもあるが、ITの利用にもコストがかかることを忘れてはいけない。重要なのは、 「公共サービスの包摂性と平等性」 を確保し、SDGs社会の実現を目指すことだ。 そのためには、無料または低コストでITにアクセスできる環境を整えることが、社会全体にとって利益をもたらす。これを実現するために、講習機会を増やすことが合理的な手段といえるだろう。
IT教育強化で進む移動機会拡大
経済的観点からも、公共交通事業者と大学が連携し、IT普及のための講習の場を設けることは、交通のデジタル化を進める上で極めて重要である。特に、 ・高齢者や障がい者向けのIT教育の強化 ・地域社会におけるサポート体制の整備 が、安全で安心な公共交通の利用につながる。IT教育の機会を提供することは、社会的包摂を進め、移動の機会を増やすことにも貢献する。 デジタルスキルを向上させ、誰もが自分で情報を取得できる力を身につけることが、公共交通のDXを推進するカギとなる。 また、高齢者でも使いやすいデバイスやアプリケーションの開発を進め、ITに不安を感じる人たちにも安心して利用できる環境を提供することは、公共交通にとっても重要な課題だ。
IT支援による平等社会
デジタル化社会の進展において、アナログ環境との調和を取ることは依然として重要である。ITに不安を感じている人たちは確実に存在しており、そのための配慮を継続的に行うことが求められる。これにより、社会全体の平等性と包摂性が向上する。 DX推進が急がれるなかで、スピード重視が過剰になりすぎると、逆に危険な側面が浮き彫りになることもある。重要なのは、多様な生活者がいることを認識し、地域社会全体でDXに慣れる機会を提供することだ。ITに不安を持つ人たちが社会に積極的に参加できるようにするため、アナログ対応を簡単に切り捨てるのではなく、全員がデジタル社会にアクセスできるようサポートを提供し続けることが重要だ。 継続的な配慮により、すべての市民が情報社会にアクセスできる環境が整い、結果として社会全体がより効率的で公平なものとなる。公共交通においても、移動の機会が確実に提供されることが求められている。 結論として、ITが苦手な利用者への配慮は、社会全体の平等性を維持するために不可欠である。この配慮を支援するために、サポートを強化し、積極的に支援することが重要だ。全員が平等に参加できるSDGs型社会の実現には、デジタル社会での配慮を徹底し、誰もが情報にアクセスできる環境を整備することが不可欠である。 公共交通事業者には、地域での学び合いや教え合いの場を増やし、DXへの「慣れ」を加速させる取り組みを進めてほしい。
西山敏樹(都市工学者)