消えた英国人探検家、アマゾンの「失われた都市Z」を探し求めたフォーセットの末路
謎の手稿「どの街角にもローマ風の尖塔がある」
それでもフォーセットの南米への思いは変わらなかった。戦争が終るとブラジルに戻り、彼にとって最後となる探検に向けた準備を進めた。 フォーセットはブラジルの先住民について人種差別的な表現で文章を書くこともあったが、その風習と言語を理解しようと努力していた。 彼は植民地主義者の貪欲さが先住民の社会に与えた影響を嘆き、熱帯雨林に複雑な文明があったとする16~17世紀のスペインとポルトガルの記録には一定の信憑性があるかもしれないと考えるようになった。それらの記録には「とても大きな居住地」「内部に素晴らしい道路」などといった記載があった。 フォーセットが特に関心を寄せたのが、冒険家や財宝ハンターらの話を記したとされるポルトガル語の文書「手稿512」だ。この文書には、1753年に貴金属を探していた冒険家たちが巨大建造物、道路、広場のある廃虚となった都市を見つけたことが記され、「どの街角にもローマ風の尖塔がある」などと書かれていた。 この文書の信憑性については研究者の間で意見が分かれており、懐疑派は偽書だとしている。1822年にポルトガルから独立し、その後共和国となった歴史が浅く不安定なブラジルにとって、中米のマヤのような古代文明が国内に存在したとする文書の「発見」は都合が良かっただろう。 しかし、熱帯雨林に複雑な文明があったという説を信じていたフォーセットをはじめとする当時の多くの人は、この手稿は本物だと考え、フォーセットはその場所を見つけ出そうという考えに取り憑かれていった。
古代都市は確かにあった
フォーセットは手稿512に着想を得たが、そこに記述されていた都市そのものを探そうとしたわけではない。この文書にある都市はブラジル北東部にあると思われた。他の複数の情報源(彼はそれを明らかにしなかったが)も調べたフォーセットは、ブラジル中西部マットグロッソ州の原野に失われた文明があったと考えるようになり、その都市をZと呼んだ。 1925年4月、フォーセットは長男ジャックとその親友のローリー・リメルを伴い、クイアバを出発してZを目指す探検を始めた。フォーセットが妻に書き送った手紙が一行からの最後の連絡となった。「私たちは来年まで文明世界から姿を消すよ。想像してみてくれ……私たちがこれまで文明人が足を踏み入れたことがない森にいるのを」 そして彼らは本当に姿を消してしまった。動物あるいは誰かに殺されたのだろうか? 彼らの身に起きたことを明らかにしようと幾つかの探検が行われた。ジェームズ・ボンドの生みの親、英小説家のイアン・フレミングの兄であるピーター・フレミングもそのような探検を行った一人だ。しかし、その試みの多くは悲劇的な結果に終わり、フォーセットの運命が明らかになることはなかった。 1952年に人類学者のオルランド・ビラスボアスが、「フォーセットの遺骨を発見し、先住民族カラパロ族がフォーセットを殺害したことを認めた」と発表したが、後の検視でこの遺骨はフォーセットのものではないことが分かった。 フォーセットの物語は、長らく文化に影響を与え続けた。彼は、映画のキャラクター、インディ・ジョーンズのアイデアの元になった人物の一人だ。また、米国のジャーナリストで作家のデイビッド・グランは、フォーセットの物語を題材にノンフィクション『ロスト・シティZ 探検史上、最大の謎を追え』を書き、この作品はその後、2016年に『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』と題して映画化された。 その著作の中でグランは、自分たちはフォーセットを殺していないと主張するカラパロ族の証言を引用している。それは、「フォーセットのキャンプから数日間にわたって煙が上がったのを目撃した、おそらく東の地域にいる“敵対的”な人たちに殺されたのではないか」というものだ。 フォーセットの最後の日々の謎が完全に明かされることはないかもしれないが、失われた都市を求める彼の探求は終わりを迎えたのかもしれない。彼が消息を絶ってからの数十年間に行われたマットグロッソ州北東部の探索により、大規模な都市居住地遺跡が発見された。この遺跡は現在シングー先住民公園の中にあり、クイクグと呼ばれている。 そこには大通り、橋、大広場の跡があり、ライダー(レーザー光を使ったレーダー)による探査で、アマゾンのこの地域には1500~400年前に大規模な居住地があったことが示唆されている。Zの正体とその正確な位置は依然として謎に包まれているが、この地に古代都市が隠されているというフォーセットの直感は正しかったようだ。
文=Jordi Canal-Soler/訳=君清由実/アーキ・ヴォイス