なぜ中日の与田監督は神宮の無観客試合で聞こえる「実況の声」にクレームをつけたのか?
ピッチャーの癖を盗み、球種を読むことはプロで広く使われているテクニックだが、キャッチャーの構えの位置を知ることが、もっとも手っ取り早い手段だ。インコースか、アウトコースか。それがわかるだけでも狙い球を絞るための有力な材料になる。 ひと昔前は、二塁走者が知らせたり、ベンチから大声や音を立て、インコース、アウトコースを知らせる原始的な手法を取っていたこともあるが、現在、そういった行為は、ルールで固く禁じられている。もちろん、打席でチラっとキャッチャーのミットの位置をのぞき見することも禁じられているが、打者は気配でキャッチャーの構えの位置を知ろうとする。それを察知されないようにピッチャーが投球するギリギリまで「構えない」、「動かない」というキャッチャーもいる。 故・野村克也氏は、「ギリギリまで構えるな」と選手に教えていた。だが、これは、キャッチャーが構えたミットに向けてラインを作りコントロールを定めるタイプのピッチャーにとってはマイナス。あくまでもケースバイケースではあるが、音を立てず、気配を消して、インコース、アウトコースに寄るキャッチャーや、わざと大げさに移動する足の音を聞かせてから、逆に構えるようなフェイクを仕掛けるキャッチャーもいて、そのキャッチャーの動作には、プロならではの攻防がある。 もし実況の声が、ミットの構えのコースを教えてくれるのならば、そういうキャッチャーの細やかな駆け引きは台無しとなり、打者に配球を読む大きなヒントを与えることになる。勝利のために細心の注意を払う与田監督が選手の声を汲み取ったのも納得できる。 「アナウンサーの方々が試合の佳境に入ってヒートアップするのもわかるし、長年の習性で情景描写を口にすることも十分にわかる。特にラジオは、細かく言葉で試合を伝えるからね。新型コロナの感染防止の観点から換気に気をつけていて窓を開けておかねばならない放送ブースがあるのかもしれない。解決が難しい問題であることは承知しているが、なんらかの対策をしていただくことに期待している。球場の構造上、手立てを打つことに限界があるのであれば、なんとか無観客の間だけでも、アナウンサーの方々が注意を払ってもらえれば」と、加藤球団代表。 試合後、審判団は、神宮球場で待機していたセ・リーグの杵渕統括に報告。杵渕統括から加藤球団代表に連絡が入ったという。 「杵渕統括から、神宮だけではないので、各球団の広報を通じて、状況を確認して直すべきところは、直したいとの報告があった。これ以上のアクションは球団としてはない。迅速に対応してくれたので納得している」 神宮球場では、さっそく23日の阪神戦から透明シートを放送ブースの前に緊急設置することになったそうだ。神宮だけでなく、甲子園球場の放送ブースも、仕切りのない観客席の間の吹きさらしの中に設置されるため、なんらかの対策は必要になってくるのかもしれない。また、今後は、実況よりさらに鮮明に聞こえることになる「選手のヤジ」の問題がクローズアップされる可能性もある。 新型コロナと共存するため、何から何まで初体験の2020年シーズンには、まだまだ予想だにしない問題が待ち構えているのかもしれない。