日本の饅頭の元祖、塩瀬総本家第34代当主・川島英子、100歳の人生訓とは「売り方は新しい時代に応じても、味は決して変えません」
お店は私たちの息子が35代当主としてやっています。息子の代になってからは、私はいっさい口出ししていません。すべては彼の責任でやっていることであり、仮に不具合がおきたとしても、それはそれでいいじゃないですか。もうスパンとしたものですよ。 こだわらない、うじうじしない。それは私の生き方でもあります。 今は毎日のんびりと暮らしています。毎朝お寝坊して、朝昼兼用のお食事。買い物は息子の妻と娘にお願いしていますが、自分の食べたいものを自分で作って食べています。100歳のおばあさんなので、油ものの食事は避けて、お魚や鶏肉中心。 お野菜はなんでもいただきますが、実は甘い物はめったに食べない(笑)。少食になっちゃってあんまり食べられないのよ。 午後は家でのんびり書き物をして過ごします。私は12歳から和歌を詠んでいて、その時々に心にパッと浮かんだものを書き留めているのです。 利をはなれ 心のすべて 無なる時 有を生ずる 世とぞ知りたり これは、ずいぶん前に当主としてふと不安を感じたときに詠んだ歌です。目先の利に惑わされてはいけない。握ろうとすると逃げる。何事もこだわりすぎない、ということでしょうか。 人生は常ならぬもの。浮き沈みは必ずあります。沈んでいるときは、かつての夢にこだわらない。今はそういう時期だと受け止めて、無理をせず、でも絶対にやめないで、それなりでいいからとにかく続ける。 私は「やめない」と決め、沈んでも歩みを止めなかった。こだわらないのが一番。それが100歳の私の人生訓かしらね。 (構成=平林理恵、撮影=上田佳代子)
川島英子
【関連記事】
- 【前編】日本の饅頭の元祖、塩瀬総本家の会長・川島英子「信長、秀吉、家康たちから愛された、饅頭ひとすじの老舗。暖簾を守る100歳の思い」
- 94歳の「髪結いさん」は、日本で唯一の有職美容師。祖母の代から135年続く、京都の老舗《ミナミ美容室》。日本の歴史上の髪型も資料から再現
- 韓国の手芸品・ポジャギ制作を55歳で始めて20年。一生続けたいと思える理由は?老眼鏡をかけながら、一針一針根気強く縫い上げる【2023編集部セレクション】
- 寄席紙切り一筋57年、林家正楽「弟子は3人。若さには勝てないから、切ったもので勝つ。いつだって、その時代の一番でいたい」
- 日本で唯一、女性で盆栽技能保持者の73歳盆栽師。「身近に植物があると、発見がたくさん」BBCの放送で、世界中から興味を持たれて