MoMAのグレン・ローリー館長が退任へ。後任は「世界規模で」これから検討
ニューヨーク近代美術館(MoMA)のグレン・ローリー館長は1995年に就任以来30年に渡って同館を率いてきたが、9月10日、2025年に退任することが発表された。 ローリーは現在69歳で、2025年9月の引退時には70歳を迎える。もともと同館には「主任学芸員およびその他の上級管理職は65歳で定年退職する」という規則があったが、「有能で経験豊富な労働力を戦略的に採用し、維持するための十分な柔軟性を提供していない」として2018年に撤廃された。 館長の契約は6月に更新の時期を迎えていた。美術館側は継続を希望していたが、次世代の指導者にバトンタッチする時期だと判断したという。 この決断について、ニュースを最初に報じたニューヨーク・タイムズ紙にローリーは、「美術館の未来について考えるには、今がちょうどいい時期だと思いました。私が30年前にやろうとしたことは、全て達成されたか、非常に良い形で実行に移されています」と語った。そして、「長居する人間にはなりたくなかった」と付け加えた。 イスラム美術の研究者でもあり、アーサー・M・サックラー美術館のキュレーターやトロント・オンタリオ美術館の館長など豊富な経験を積んでいたローリーは、1995年、40歳でMoMAの館長に就任した。
彼は、これまで以上に個人からの寄付に頼らなければならない主要美術館において、館長の役割を企業のCEOに近いものと定義し、アーティストたちだけでなく、理事会の不動産王たちとも気軽に話ができるよう、エレガントなスーツとアスコット・タイを身につけて職務にあたった。結果、MoMAの基金を約2億ドル(現在の為替で約283億円)から約17億ドル(同・約2412億円)に、年間運営予算も約6000万ドル(同・約85億円)から約1億9000万ドル(同・約269億円)に増やすことに成功した。 ローリーのリーダーシップの下、MoMAは2度の改装と1度の拡張を含む、数々の大きな転換を経験してきた。1999年には、クイーンズ区ロングアイランドシティにあるP.S.1現代美術センターとの合併や、近現代美術の展示方法の見直しを行った。彼はまた、MoMAでの展覧会、収蔵品、統治、人材配置に多様性をもたらそうとする努力を後押しした。2015年には、ハーレムのスタジオ・ミュージアムの館長であるテルマ・ゴールデンと協力し、新進のアート関係者のための共同フェローシップ・プログラムを導入。ゴールデンは、ローリーの後継者候補としてアート界でしばしば話題にのぼる。 近年の功績と言えば、2019年の大改装だろう。MoMAの敷地面積を6万5775平方メートルまで拡大し、影響力のあるコレクションを再配置したほか、ギャラリーを多様化し、アート、建築、ダンス、映画といった分野の垣根を取り払った。だがリニューアルしてわずか2カ月後、新型コロナウイルスのパンデミックにより閉館を余儀なくされた。その間、予算は削減され、従業員は解雇された。しかしコロナ後の立ち直りは早く、アートニュースペーパーによると、2022年には数カ月休館していた2019年よりも10%増の来館者を迎えたという。 だが、仕事は順調なばかりではない。性的目的の人身取引を行っていたジェフリー・エプスタインとの繋がりが報じられたレオン・ブラックを筆頭に、近年はMoMAの理事に厳しい監視の目が向けられている。また、MoMAの従業員による賃金をめぐる抗議も起きている。 MoMAでは近年、ジョーン・ジョナス、ヴォルフガング・ティルマンス、ラトーヤ・ルビー・フレイジャーの回顧展など話題の展覧会が開催され、9月末にはトーマス・シュッテの個展を控えている。その一方で、今年初めにはMoMA史上最大規模のビデオ・アート展が開催されるなど、これまで紹介されて来なかったコレクションの一面を伝える展示にも意欲を見せている。 MoMAの理事会は、これから世界規模でローリーの後任を探すという。