「8割近くが給与に不満」「過労死ライン超えの職場の割合は…」 消化器外科医激減で医療崩壊の懸念が
主治医制からチーム制へ
黒田医師の労働時間も以前より減ったとはいえ、依然として一般労働者に比べればはるかに長い。それでも「充実した日々を送っている」との実感はあるといい、 「第一に、家族と過ごす時間が増えました。以前ならば、家族旅行や子どもの運動会を理由に休みをもらうなど考えられませんでしたが、今では有給休暇も取得しやすくなりました」 続けて、こう言うのだ。 「『主治医制』から『チーム制』に変わった影響は、やはり大きいと思います」 主治医制とは、ある患者の診療から手術、術後の管理までを一人の医師がすべてカバーする仕組みである。一方、チーム制では複数の医師が情報を共有するため、たとえば診療はせず手術には参加する、あるいは手術はしたが、術後の管理は他のメンバーに任せるといったことが可能になる。 主治医制では担当する患者の容態が急変した場合、土日でも病院に駆け付けねばならない。一方、チーム制ならば土日の当番医がその役割を担うことになる。 「野球に例えるなら主治医制は先発完投型で、チーム制は継投型でしょうか」 黒田医師はそう表現する。また鷲尾医師が属する科でも、チーム制が導入されている。例えば手術時に、病巣の切除と再建でメンバーを入れ替えることにより、昼食の時間も確保できるようになった。そのメリットは、業務の効率化だけではないという。 「いかなエキスパートでも、食事や睡眠が不十分では集中力を保てません。チーム制によって、医療の質も上がったと思います」
8割近くが給与に不満
厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」が2019年にまとめた報告書では、 〈医師は、医師である前に一人の人間であり、健康への影響や過労死さえ懸念される現状を変えて、健康で充実して働き続けることのできる社会を目指していくべきである〉 そううたわれている。両医師の勤務実態に鑑みれば、この部分は改善されつつあるといえよう。ところが、それでもなお消化器外科医の不足は深刻化している。国内の医師数は年々右肩上がりで、20年末の時点で約33万9000人と、20年間でおよそ8万4000人増加。これに呼応するように内科学会や循環器学会、形成外科学会などでは会員数が軒並み増えているのだが、ひとり消化器外科学会だけが10%以上の減少を見ているのだ――。 今回のアンケートからは、医師らが給与面で強烈な不満を訴えている現状が見て取れる。 回答によれば年収1000万円未満は9.2%で、1000万~1500万円未満が34.6%。1500万円以上が56.2%である。すさまじい過重労働に見合っているかと問われれば疑問は残るが、“医師は高給”という一般的イメージを崩すほどの低賃金ではないだろう。ところがアンケートでは、賃金に関する満足度について「全く不満足である」28.4%、「やや不満足である」48.3%と、8割近くが不満を示しているのだ。