「8割近くが給与に不満」「過労死ライン超えの職場の割合は…」 消化器外科医激減で医療崩壊の懸念が
労働時間の長さではなく給与水準の低さ
「国民の皆様へ」とのメッセージが出される2カ月前、同会ホームページには「医師の働き方改革を目前にした消化器外科医の現状」と題し、同会に所属する医師を対象としたアンケート結果の報告書が掲載された。 65歳以下の会員2932人から回答を得たという調査では、「時間外労働」について回答者の16.7%は過労死ラインとされる月間80時間以上(うち全体の7.6%は100時間以上)、48.3%は過労死との関連があるとされる月間45時間以上と答えたという。回答者の実に半数近くが長時間労働を強いられていることになる。 だが、意外にもこのアンケート結果は、最大の不満が労働時間の長さではなく給与水準の低さであることを示していた。 「最も不満に思うこと」を一つ選ぶ設問に対し、回答者の11.2%が「労働時間」を選択したのだが、その4倍近い44.3%が「給与」を選択しているのだ。また「後輩等に消化器外科医になることを勧めるか?」との設問には「強くそう思う」「そう思う」合わせて38.2%、「子供に勧めるか?」の問いに至っては、わずか14.6%にとどまったという。 厳しい競争を勝ち抜き、「医は仁術なり」の金言通りに世間では尊く、そして高潔とされる立場にありながら、消化器外科医が目下、将来に強い不安を抱いている実態が、アンケートからはうかがえる。 医療の現場ではいま、何が起きているのか。まずは日々、最前線で患者と向き合っている医師に聞いてみた――。
激務の日々
「起床は6時前で、病院に着くのは6時50分です。そして手術開始が8時15分。普段の帰宅時間は夜8時ですが、手術が長引けば深夜0時を回ることもあります」 前出のメッセージ「国民の皆様へ」の執筆者である広島大学病院消化器・移植外科の黒田慎太郎医師(47)は、そう話す。手術時間は扱う消化器によって異なり、黒田医師が専門とする肝胆膵(肝臓・胆道・膵臓)のがん摘出の場合、4~5時間で終わることはまれで、しばしば10時間以上を要するという。 最近は「ダヴィンチ」と呼ばれるロボットによる手術も行われていると聞く。が、ロボットを使えば手術時間も短縮されるのかと思えば、その逆だという。 「今の手術支援ロボットは『ロボット外科医』ではありません。皮膚の切開、病巣の切除、傷口の縫合などすべての手技は、医師がモニターを見ながらメスなどを慎重に遠隔操作して行います。そのため、ロボットを用いない場合より、かえって手術時間は長くなりがちです。ロボット投入の目的は時間短縮のためではなく、主に患者さんの体への負担を軽くすることなのです」(同) 大学病院は一般病院と比べ、より専門的で高度な医療技術や知識が求められる。外科であれば新たな手技のトレーニングや治療法の開発、病気のメカニズムの解明に向けた研究が行われる。加えて、研修医の指導にも時間を割かれることになる。治療方針を話し合うカンファレンスに回診、手術や術後の管理といった、医師としての日常的な診療業務に「研究者」「教育者」としての業務が上乗せされるわけだ。