「鈴木康広展 ただ今、発見しています。」(二子玉川ライズ スタジオ & ホール)開幕レポート
東京の二子玉川ライズ スタジオ & ホールで「鈴木康広展 ただ今、発見しています。」が開幕した。会期は9月1日まで。なお、本展は休館中のBunkamura ザ・ミュージアムが主催しており、担当学芸員は同館の菅沼万里絵が務めている。 鈴木康広(1979~)は身の周りに存在する何気ないものごとに注目し、小さな気づきを独自の視点でとらえなおし、作品を制作してきたアーティストだ。その作品の持つ意味はロケーションの変化や鑑賞者の視点によって変化し、ときにユーモラスに、ときにシリアスな問いにと変化することが特徴だ。 本展は鈴木の東京初となる大規模個展で、《まばたきの葉》や《空気の人》といった代表作をはじめ、これまで鈴木がその視点によって発想してきた作品約50点を一堂に展示するものとなっている。 本展のタイトル「ただ今、発見しています。」について、鈴木は「発見そのものが美術になり得るのか、という問いをつねに持ちながら制作してきた」としたうえで次のように語った。「本展を見に来た子供たちの視点によって、作品の見え方が様々に生み出され、新たな受け止め方が発見されることを期待したい。大人と子供の区別を取り払うような、発見の連鎖が生まれればと思っている」。 会場の中央には鈴木の代表作のひとつである、巨大な《空気の人》が横たわっている。中に空気が入った本作が床面の大半を支配するそのインパクトは、そのまま地球上に普遍的に存在する空気という物質の重さを改めて意識させる。 白く細い円筒から葉のかたちをした白い紙を吹き出し続けているのは《まばたきの葉》だ。紙の裏表には開いた目と閉じた目がプリントされており、舞い落ちる際にはまばたきのようにこの紙が回る。鑑賞者が作品を見るとき、作品にもまた見られている、そんな視点の変換を感じさせる作品だ。 《足元の展望台》は大きな足のかたちをした台座で、来場者はこの上に乗ることができる。上に乗った子供は少し背伸びしたくらいの背丈になり、大人は自分の足元をいつもよりも下に見ることになる。ほんの数十センチ高くなるだけでも、周囲の景色は変化し、これまで当たり前だったものが違った様子に見えてくる。今回の展示室ではどのようなものが見えるのか、ぜひ実際に乗って確かめてほしい。 《まばたき証明写真》は、店舗外などによくある証明写真機と同様の見た目だ。しかし、この証明写真機はまばたきをすることでシャッターが切られるという作品であり、すなわち「目をつぶった写真」しか撮れない。目を閉じることでしか像を撮影できないという構造は、シャッターを切ることで映像を静止させるカメラの仕組みにも似ており、自身の身体が機械的なルールで動いているかのような錯覚を覚える。 ほかにも《自然を測るメトロノーム》や《軽さを測る天秤》といった、計測の概念を揺さぶるような作品も展示。また、地球儀をファスナーで開く《地球展開儀》や、そのファスナーを実際に会場に浮かべてラジコンで操作できる《ファスナーの船》なども見ることができる。 さらに、会場中に鈴木本人のコメントを記した足跡のかたちをしたメモが貼られている。鈴木の作品を見るだけでなく、その作品を制作する過程にあった思考まで、来場者はたどることができる。 いつのまにか固定化され、頭の中に体系化されてしまった思考を、外側から揺さぶるような鈴木の作品群。れらの作品を体感することで、自分のなかの閉塞感を打ち破るヒントが生まれる、そんな可能性に満ちた展覧会だ。
文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)