西武3位浮上を演出した異色の2人…打者転向2年目の川越誠司が初本塁打&3年目”サブマリン”与座海人が初勝利
「一昨日、昨日と昼間はファームの試合に出ていたので、一応、打席の感覚というものがあったのでよかったです。あの打席では何とか三塁ランナーを返そうと、そして強く振ろうと意識していました」 打者としてプロの世界を生きていくために、オフに山川穂高や森友哉に弟子入りした。その山川から打席への登場曲として、落語家の林家たい平が歌う『青雲の歌 令和バージョン』を勧められた。 日本香堂が販売する線香のテレビCMでもお馴染みの、どことなく牧歌的な雰囲気を漂わせる登場曲とは対照的に、左打席でほとばしる荒々しさからは大きな可能性が伝わってくる。大仕事を成し遂げて凱旋した三塁側ベンチで山川からかけられた言葉を、ヒーローは照れくさそうに明かした。 「ナイススイング、と言っていただきました」 何かに導かれた縁なのか。川越は8-5で勝利した12日のロッテ戦(ZOZOマリンスタジアム)以来の先発であり、見逃し三振とライトフライに倒れた後の3打席目で代打を送られていた。そのロッテ戦で先発のマウンドを託されるも、勝利投手の権利を得るまであとアウトひとつという場面で降板。ベンチで悔し涙を流した3年目のサブマリン、与座海人も中10日で再びロッテと相対した。 一軍初登板を含めて5度目の先発。プレーボール時点での0勝2敗、防御率5.24という数字に誰よりも与座自身が悔しさと不甲斐なさを募らせていた。開幕から日曜日ごとに先発してきたが、直近となる19日の東北楽天ゴールデンイーグルス戦は左腕の榎田大樹が指名されていた。 「本当にあとアウトひとつのところで……悔しくて忘れられない日々でしたけど、何とかもうひとつ殻を破って投げ切る、ということを目標にしてきました」
前回登板からの汚名返上を誓った与座だったが、辻監督は初回で見限ることも考えたと試合後に明かしている。わずか4球でツーアウトを取りながら四球を与えてリズムを崩し、4番・安田尚憲に先制二塁打を浴びる。再び四球でピンチを広げ、6番・中村奨吾にもタイムリーを許したからだ。 「今日もダメかな、と。まだ自信なさげに投げている姿がちょっと、という不安があったので。早め(の交代)を考えたりもしたけど、あれよ、あれよとスルスルいったところで、こちらが代えどころを失ったというか。前回のこともあって投げさせたいというのもあったので、本当によく粘りましたよね」 5イニングスを投げたなかで、三者凡退に抑えたのは2回表だけ。3回表の一死一、三塁のピンチでは、自身の頭上を襲った安田の強烈なライナーを倒れながらキャッチ。4回表の二死二、三塁では、快音を残した1番・福田秀平のライナーが幸運にもファースト山川の真正面を突いた。 「相手バッターをポンポンと打ち取る場面は少なかったですけど、何とか初回の2失点で抑えられるように、自分自身を励ましながら投げました」 与座は、沖縄尚学高ではエースではなく2番手だった。卒業後に進んだ岐阜経済大(現岐阜協立大)で、コントロールがつきやすいという理由で1年生の終わりごろに、それまでのサイドスローからアンダースローに転向。西武で活躍した牧田和久(現楽天)のフォームをお手本としながら頭角を現し、2017年のドラフト5位で指名された。しかし、憧れのプロの世界で予期せぬ苦難が待っていた。 大学4年生のころから抱えていたひじの炎症がなかなか治まらず、一軍はもちろんのこと、二軍でも登板なしに終わった1年目の10月に大きな決断を下す。内側側副じん帯を再建する、いわゆるトミー・ジョン手術を受けるとともに、支配下登録選手契約が一時的に解除された。 昨年のいまごろは育成選手として、完治を信じてリハビリに明け暮れていた。最速で130kmのストレートと100km台の前半をマークすることもある変化球で緩急の差をつけ、タイミングをずらせて打ち取るピッチングを取り戻し、手にしたプロ初白星に感無量の思いを募らせた。 「周囲の方々に日々励まされながら、ここまで来られたと思う。本当に感謝しています」