実はこってり芸術的造りの代々木駅
パリの地下鉄駅のような東口
代々木駅には西口・北口・東口と3ヵ所の出入口がある。メインは原宿寄りに陣取る西口で、駅のスタンプもここに備えられているし、横断歩道を渡った先には「明治神宮北参道口」の立派な石柱が迎える。かつては代々木ゼミナールを始めとする予備校のイメージが強かった地だけれど、いまは専門学校の立地も多いようだ。沿道の飲食店は、原宿あたりよりぐっと庶民的な印象である。 北口は、2000(平成12)年の都営地下鉄大江戸線の代々木駅開業に合わせて、従来の乗り換え専用地下通路を西側に延長して開設された。テナントビルの1階が改札口。 面白いのは西口と相対する位置にある東口である。自動改札機が3台しかない狭い通路は、改札を出るとすぐ山手貨物線をくぐる地下道へ導く階段となる。地下通路がまた狭い。階段をあがった先の出入口も小ぢんまりとローカル然としていて、とても大都会のまんなか、あのマンモスターミナル新宿の隣駅とは思えないのだけれど、デザインが凝っている。二枚貝が口を開けたような屋根、裏側は放射状に垂木を見せ、前面の側壁はゆったりとカーブをなして旅客を誘うようだ。パリの地下鉄の出入口を連想させる。 目の前にはコンビニが1軒ある程度で、通りに人の気配は少ない。すぐそばにNTTドコモのシンボリックな超高層ビルがそびえるものの、訪れたのが土曜の昼下がりだったせいだろうか。先ほど「餃子とビールは文化です」と書かれた飲食店の広告を見かけたけれど、東口の前に店はまばらなので、千駄ヶ谷方面へ少し歩かなければならぬらしい。 それならいっそのこと西口で飲んだほうが手っ取りばやそうだが、そちらへ行くには貨物線が地平を走っているため踏切が立ちはだかる。列車本数が増えているから、折あしく警報機が鳴ったときは、一刻を争う呑み助たちもしばしの辛抱が必要だ。
辻 聡