視聴者から共感を得る朝ドラ『虎に翼』、不平等へのもどかしさを代弁
貧農、留学生、華族…さまざまな立場の女性たちを描く
明律大の女子学生たちはそれぞれ立場が違った。寅子は父親が大銀行に勤務し、経済的に豊かな家庭で育った。貧農出身のよねは父親によって身売りされることを避けるために髪を切り、その後も男装していた。3児の母親・大庭梅子(平岩紙)は弁護士の夫から屈辱的な扱いを受けていた。崔香淑(ハ・ヨンス)は朝鮮からの留学生で、桜川涼子(桜井ユキ)は華族の令嬢だった。 この5人の関係も平等が貫かれた。涼子のそばを離れない付き人の玉(羽瀬川なぎ)も含め、6人は仲間になる。人間の真価は立場に左右されるものではないという作品のメッセージにほかならない。やはり憲法14条につながる。6人の女性を異なる立場にしたのは、メッセージを際立たせるためであるのは言うまでもない。 目頭が熱くなるエピソードも交えられている。留学生の崔は日中戦争が勃発した37(昭和12)年、卒業生から高等試験司法科の合格者を出せなかったために廃止が決まろうとしていた明律大女子部の存続を学長に土下座までして頼んだ。翌年の同試験への再挑戦を控えた寅子たちの士気に関わるからだ。(第26回) 「あと1年だけ待ってくださいませんか。来年こそは必ず合格しますから。お願いします」(崔) 崔自身は兄が思想犯の疑いをかけられたため、高等試験受験をあきらめて帰郷することを決めていた。せめて仲間の夢をかなえようと献身的だった。崔と仲間たちの関係に出身の違いはなかった。
出演者の男女比が半分ずつになることを目指す
女性たちだけの物語ではない。寅子と男子学生との垣根も取り払われた。女子学生に居丈高だった花岡は考え方を改めた。花岡は第1志望だった東京帝大に落ちたため、気持ちがすさんでいたが、寅子たちと付き合うことによって自分の間違いに気付かされる。第19回、心ない言葉によって傷つけてしまった梅子にわびた。 「仲間になめられたくなくて、わざと女性をぞんざいに扱っていました。こんな人間になるはずじゃなかった」(花岡) 自分を取り戻した花岡は高等試験に通った後、第31回で裁判官試験にも合格する。 このドラマの男女平等の精神にはうそが感じられない。出演者の男女比も半分ずつになることを目指しているせいでもあるだろう。 このドラマは2021年からNHKが参加するプロジェクト「50:50 (フィフティー・フィフティー)The Equality Project」の該当番組の1つなのである。もともとは英国の公共放送BBCが17年に提唱したプロジェクトであり、NHKも賛同し、日本のテレビ局では唯一参加している。