視聴者から共感を得る朝ドラ『虎に翼』、不平等へのもどかしさを代弁
高堀 冬彦
今春から放送するNHK連続テレビ小説『虎に翼』が好評だ。ヒロインは、戦前の日本で女性初の弁護士となり、戦後には裁判官も務めた故三淵嘉子さんがモデル。女性は結婚し家庭に入るのが当然とされていた時代にあって差別に立ち向かい、法律家として成長する姿を描く。なぜこのドラマが視聴者から共感を得られているのか、放送界への取材を30年以上続ける筆者が探る。
現代に通じる差別に異議申し立て
朝ドラことNHK連続テレビ小説『虎に翼』が高い視聴率を得ている。内容も評判が高い。ドラマの良しあしを決めるのは「1に脚本、2に俳優、3に演出」というのが国内外の常識だが、この作品は三拍子そろっている。 物語のテーマは骨太なのに、ユーモアがふんだんに交えてあるので、堅苦しさがない。テーマは性別や人種などによる差別を禁じた日本国憲法第14条だ。第1回もこの条文をヒロインの佐田(旧姓・猪爪)寅子(伊藤沙莉)が新聞で読んでいるシーンから始まった。憲法が公布された1946(昭和21)年のことだった。 テーマはアニメーションによるオープニング映像を見ただけでも伝わってくる。法服を身にまとった寅子が中心になって、医療職や農業、事務職などさまざまな職業の女性たちが一緒になって踊る。法の下の平等を表している。 現在、憲法を巡っては改憲派と護憲派に分かれているが、第14条について改正を求める声は聞こえてこない。大抵の日本人はこの条文を支持しているのではないか。しかし、現在もこの条文は順守されていないというのが実情だ。 非営利団体「世界経済フォーラム」(WEF)が男女格差の実情を国ごとに算出するジェンダーギャップ指数の2023年版で、日本の順位は146カ国中125位。恥ずべき数字である。政治と社会の怠慢だろう。一方で今よりずっと不自由だった戦前の寅子が、現代に通じる差別に異議を申し立てているのだから痛快だ。
ヒロインの怒りに視聴者が共鳴
戦後編となる6月からの寅子は、司法省(現法務省)などの職員として家庭裁判所の設立に向けて力を尽くす。恵まれない立場の少年少女や家族が戦死した女性らを救済するためだ。社会派ドラマが激減した中、見る側の胸を打たぬはずがない。 戦前の寅子はまず弁護士を目指した。戦後になるまで女性は裁判官と検事になれなかったからだ。寅子は明律大女子部法科を経て20歳だった1935(昭和10)年に、明律大法学部に入学する。(第16回) そこで出会った同級生の花岡悟(岩田剛典)から、自分は女子学生を特別扱いしてやっていると告げられる。花岡は男子たちと共に学ぶ女子学生たちは、世間一般の女性とは違うと考えていたわけだ。これに寅子は怒った。(第18回) 「私は特別扱いされたいわけじゃない。特別だから、見下さないでやっている? 自分がどれだけ傲慢(ごうまん)か理解できないの!?」(寅子) 寅子の怒りはこれにとどまらない。38(昭和13)年、晴れて超難関の高等試験司法科(現司法試験)に合格すると明律大は祝宴を開いてくれたが、その中の記者会見で語気を荒らげる。記者の1人から「日本で一番優秀なご婦人方」とたたえられたからだ。(第30回) 「高等試験に合格しただけで、自分が女性の中で一番なんて口が裂けても言えません」(寅子) 寅子は謙遜したのではなく、教育を受ける権利の不平等を記者が分かっていないことに憤ったのである。 家庭の事情で試験を受けられない級友がいたし、それ以外にも貧困などから教育すら受けられない女性がいることを寅子は知っていた。貧農に生まれたが、独力で明律大に入った同級生・山田よね(土居志央梨)たちと出会えたからだ。 この場での寅子の怒りは収まらなかった。36(昭和11)年から女性も高等試験司法科を受けられるようになったものの、合格しても裁判官と検事にはなれなかったからである。 「男か女かでふるいにかけられない社会になることを、私は心から願います。いや、みんなでしませんか? しましょうよ。私はそんな社会で、何かの一番になりたい。そのために良き弁護士になるよう尽力します。困っている方を救い続けます。男女関係なく!」(寅子) 憲法14条がなくたって、男女差別を含めた不平等に賛成する人は圧倒的に少数派のはず。寅子は見る側が口に出せない不平等へのもどかしさを代弁してくれている。だから多くの視聴者が共鳴する。