配給手数料は従来の半分以下、クリエイターたちに利益還元を…日本映画界に風穴を開ける K2 Pictures の挑戦
さらに労働環境の改善に向け、映画界が2023年に発表した映適(日本映画制作適正化機構)のガイドラインを上回る完全休養日を設ける。「今の映適では、撮休日は週に1回。撮休は“仕事の休み”とは違って、撮影はしないけど準備をしたり、晴れたら撮影になって翌週に振り替えられたりもします。完全休養日は2週間に1回なんです。なのでそれを超えて、僕らは撮休週1回、完全休業日週1回にします」「今は負のスパイラルに陥っています。経験のある人たちが辞めていき、昨日まで学生だった人が、本当なら4番目の助監督なのに2番目の助監督になっていたりするんです。そんな状況だと失敗しがちなわけですが、誰にも余裕がなく常に圧迫されているとパワハラの温床になりすい。気がつけば、また一人辞めてしまう……。そういうのを改善し、もっともっとたくさんの人たちが入って来られるようにしたいんです」
そうした K2 Pictures のビジョンに賛同し、共に世界市場を目指した映画製作を進めていくパートナーとなったのは、岩井俊二監督、是枝裕和監督、白石和彌監督、西川美和監督、三池崇史監督、「呪術廻戦」「チェンソーマン」などのアニメーション制作会社MAPPAというそうそうたる面々だ。カンヌでのプレゼンにも登壇した西川監督は、尖ったオリジナル作品を生むのが困難な現在の日本の映画界についても言及していた。 紀伊は「製作委員会方式では、“オリジナルなものを作るのがリスク”という文化になっています。何でもそうだと思いますが、関わる人数が多くなると、どうしても企画の決定のプロセスにオーナーシップがなくなってしまいますよね。尖がった企画はなかなか通らない。“みんなが喜ぶもの”は丸いものですから」と切り出す。
「でも、世界ではオリジナルものほど価値がある。映画館もそうで、あの暗闇の中で新しい出会いや感動があり、観たこともないような映像を観られることが最大の価値。でも今、日本映画のラインナップはそうはなっていません。漫画で結末までわかっているものを観に行くわけじゃないですか? それも一つの楽しみ方ではありますが、それだけになってしまうのはよくない。本質的には、『この2時間で一体何が起こるのだろう?』という結末のわからない物語があるからこそ映画ってすてきなんじゃないかと思うので、西川さんの意見には完全に賛成ですし、だったらそういうものを作れるようにしましょうよ! ということなんです。このファンドは、僕らがそういう判断をできるようにするための仕組みなんです」