最も恐ろしい日本のヤクザ映画は? 世界に誇る珠玉の傑作(2)ヤク中描写に戦慄…実在した狂人のヤバい人生は?
マキノ雅弘から北野武まで、長い歴史を誇るヤクザ映画。1970年代に東映が展開した“実録路線”は社会現象を巻き起こし、その後のVシネマに至るまで、形を変えて多くの名作が映画史を彩ってきた。 今回はノンフィクションに材をとったヤクザ映画を中心に名作をセレクト。場面のディテールと共に紹介する。第2回。(文・ 村松健太郎)
『仁義の墓場』(1975年)
監督:深作欣二 脚本:鴨井達比古、松田寛夫、神波史男 原作:藤田五郎 出演:渡哲也 【作品内容】 昭和21年、新宿。河田組の石川力夫(渡哲也)は、ヤクザ社会のルールを無視して生きる規格外な男だった。石川が、勢力を争う“山東会”の賭場を襲い金を奪って逃走したことから、抗争が勃発。その後も他の組の幹部を叩きのめしていくが、ついに石川は、親分にまで手をかける…。 【注目ポイント】 群像劇の傑作である『仁義なき戦い』5部作、さらには『新・仁義なき戦い』3部作を撮り続けてきた深作欣二(特に『新・仁義なき戦い』3部作については当初構想になかったらしく、こちらはフィクションとなっている)。 その反動で創られたのが徹底した個人の映画である『仁義の墓場』だ。 本作は、仁義、組織、盃継承、掟といった業界のしきたり、決まり事の全てに牙を剥き、戦後ヤクザの歴史において究極の異端児とされる実在のヤクザ・石川力夫の型破りで破滅的な生き様を凄惨な暴力描写で描いた作品である。 日活出身のスター俳優・渡哲也が薬物に溺れていく破滅型の主人公を体当たりで演じている。それまでの渡は“石原裕次郎2世”と目されており、陽性なイメージの映画スターだったが、本作の演技で新境地を見せた。 『仁義なき戦い』を経て、キャリアハイを迎えた深作欣二の演出も冴えまくっている。ドライで唐突な暴力描写は健在であり、狂犬的なキャラクターである石川力夫の破滅的なキャラクターと相まって、より一層、怖さと迫力を増している。 ただ、公開当時はあまりにも極端なシフトチェンジだったために実録路線の1本だったにも関わらず興行的には不発に終わった。しかし、その後、主人公の投身自殺で幕を閉じる衝撃的なラストシーンをはじめとした、異様な迫力を誇る演出が再評価され、今ではカルト映画の1本として映画ファンの間では必見の作品となっている。 ディテールを見ていこう。 いわゆる親分や兄弟分にも突如として感情を爆発させ、致命的な傷を負わせる石川力夫。ゆえにどの暴力シーンも唐突で混沌としているのだが、特に終盤の立てこもりシーンのカオスぶりは強烈だ。 薬物に溺れ、病に身を蝕まれながら拳銃を片手に立てこもる石川は相手構わず発砲する。警官だけでなくヤクザ者からも嫌われた、石川の生き様が凝縮した息を呑むほど壮絶なシーンとなっている。 (文・ 村松健太郎)
村松健太郎