配給手数料は従来の半分以下、クリエイターたちに利益還元を…日本映画界に風穴を開ける K2 Pictures の挑戦
そしていざ配給・製作をする東映に移ると、その考えは一層強固になった。現在もクリエイターへの成功報酬制度自体はあるものの、高い幹事会社手数料及び窓口手数料によって残る利益が少ないため、成功報酬はたとえ発生したとしても極めて少ない。「いろんな人に『配給手数料ってこのパーセンテージでないといけない理由はあるんですか?』と聞いても、納得できる返答は得られませんでした。儲かった時は成功報酬でたくさんの人に返したいじゃないですか。監督、脚本家、俳優、スタッフ……皆しんどい思いをして作っているからこそ、還元したい。できない理由が前例主義的なものである部分も大きいなと感じたので、それはブレイクスルーできるんじゃないかと思いました。中にいるときは僕たちも既得権益側だったのでできなかったけれど、外に出たことでやれるんじゃないかなと」
そこで K2 Pictures では、日本コンテンツに興味がありながら接点を持てなかった国内外の会社が参加しやすいように、弁護士と会計事務所のサポートのもと、海外からの投資も想定した法律・会計基準を持つファンド「K2P Film Fund I(読み:ケーツーピー フィルム ファンド ファースト)」を立ち上げた。紀伊はカンヌでの発表の反響について、「やっと日本の会社で“世界の当たり前”をやろうとした人が現れた、って感じですよね。注目していた日本で、世界と同じ仕組みでビジネスができるんじゃないかと思ってもらえたようです」と明かす。 そして K2 Pictures では各窓口手数料を現在の半分以下にすることで、投資家とクリエイターへの利益還元を早く、多くすることを目指すという。ここでの“クリエイター”とは監督をはじめとしたトップに限らず、現場のスタッフまでが含まれる。その背景には、紀伊が現在の日本映画の制作現場に抱く危機感がある。
「若い人が全然入って来なくなっているんです。これは監督たちもみんな言っていることなのですが、制作の現場は緩慢なる死へ向かっています。でも、東映、東宝、松竹に就職したいという人は多いわけじゃないですか? ペーパーワークだけの人が金を稼いでいて、現場で汗かいて物を生み出している人たちは、作品が当たってももらえるお金は変わらない。僕らは“映画があるから映画業界は存在している”と思っているので、制作の現場に利益を還元したいんです」