汚染源がなかったはずの岡山と200キロ離れた工場周辺で特殊なPFASを検出! 「偶然とは考えづらい」汚染が拡散したのか
PFASは使用済み活性炭をはじめとした廃棄物処理の規制の網から漏れている。このため、岡山に限らず、規制の空白をつく形で汚染がどこで広がっていても不思議ではない。 そもそも、満栄工業に運び込まれる前に使っていたのはだれなのか。排出元は責任を問われないままなのか。 使用済み活性炭による汚染の拡散という構造的な問題が浮かび上がった。 ちなみに、吉田さんがつくっていたチーズや牛乳は、検査会社に出したところ、「検出下限値未満」とされた。
追い詰められた地元企業と住民は
使用済み活性炭を野積みにしていた地元の満栄工業は今年6月、町から2億円超ともいわれる損害賠償を求められた。今後、さらに土壌浄化費用など億単位の支払いを迫られれば潰れかねない。 そのことに危機感を抱いたのは、満栄工業だけではなかった。住民の中からも、不安の声が上がった。 もし満栄工業が潰れてしまえば、汚染の原因となった使用済炭がどこからきたのか明らかにされず、だれも責任を取らない事態になりかねない。活性炭の処理を引き受けた会社だけでなく、PFOA除去のために活性炭を使った排出元も責任を負うべきではないか。 「円城浄水場のPFAS問題有志の会」のメンバーでもある吉田さんは代表の小倉博司さんとともに、満栄工業の幹部と面談した。 じつは、満栄工業もまた、排出元企業を特定したいとの意向をもっていた。ただ、野積みにしていた活性炭は大量にあり、どの企業から引き取ったものかを特定するのは容易ではない。 そこで、満栄工業は、PFAS研究を続ける原田浩二・京大准教授に連絡を取った。野積みにしていた使用済み活性炭のうち手元に残していた一部を調べてもらうことにしたのだ。
残していた活性炭を調べて浮かび上がった「希少な4種類のPFAS」
吉備中央町の円城浄水場の飲み水からは、記録の残る過去3年間、国の目標値である50ナノグラムの16~28倍にあたるPFOAが検出されていた。ということは、活性炭にもきわめて高い濃度で吸着していたと考えられる。 原田准教授は、まずは満栄工業から提供を受けた活性炭を調べた。すると、きわめて高い濃度のPFOAと希少な4種類のPFASが含まれていた。 検出された4種類は7H-PFHpA、8H-PFOA、9H-PFNA、10H-PFDAで、「ハイドロPFAS(H-PFAS)」と呼ばれる。それぞれ一般的なPFASの一部がフッ素から水素に置き換わったものだという。 これらと一致するPFASが検出されれば、活性炭の出元が特定できるかもしれない。 活性炭が日常的に使われているのはどこなのか。考えられるものの一つのは浄水場だろう。だが、浄水場に流れ込む川の水にはさまざまな物質が含まれており、PFOAだけが突出して検出されるとは考えづらい。 PFOAが主に使われてきたのは工場だ。なかでも、PFOAを使用するだけでなく製造もしていた工場が疑われる。 ある調査によれば、日本には43府県の200を超える自治体にPFASを製造または使用している企業がある。その中でも代表的なのが、AGC(旧旭硝子)、ダイキン工業、三井・ケマーズフロロプロダックツ(旧三井・デュポンフロロケミカル)の3社だ。「2015年までのPFOA全廃」という協定を結んだ世界の化学メーカー8社に含まれている。 このうち、ダイキン工業の淀川製作所(大阪府摂津市)と、旧三井・デュポンフロロケミカルの清水工場(静岡市)の近くから採取された地下水を、原田准教授は調べた。 旧三井・デュポンフロロケミカルの清水工場は、これまでもスローニュースで「デュポン・ファイル」として周辺の汚染実態を報道してきたところだ。しかし工場近くで採取された地下水からは、満栄工業から提供を受けた活性炭から検出されたものと同じ組成(物質の構成)のPFASは検出されなかった。