小ボディに大エンジン:オースチン・ヒーレー3000 過去と現代が融合:トライアンフTR5 直6の英国車たち(3)
上級サルーンの2000用エンジンを流用
オースチン・ヒーレーの主要市場となったのは、アメリカ。モデル末期の1966年には、過去最高の販売数を記録し、人気は晩年まで衰えなかった。生産終了を迎えたのは、強化された安全・環境規制にあった。 新車時の時点で、確かに若干クラシカルな雰囲気はあった。それでも、ブリティッシュ・スポーツの趣へ惹かれた人は少なくなかった。 他方、トライアンフTR6の直6エンジンは、環境負荷を低減できる燃料インジェクション式。ルーカス社製の機械式システムを採用し、2.5Lから152psを発揮する。それでも、基本的には伝統に習っている。 先代に当たるTR4のアップデートに当たり、目が向けられたのは上級サルーンの2000だった。これが積む直6エンジンは、1953年の803cc 4気筒、スタンダートSCユニットをベースにしていた。 排気量は2498ccまで拡大されていたが、戦後間もない「馬力課税」の思考が残る設計にあった。ロングストロークによる粘り強いトルクを、当時のトライアンフの社長、ハリー・ウェブスター氏は評価。妥協の選択ともいえたが、気に留めていなかった。 同社にとっても、最大の市場はアメリカだった。厳しくなる一方の排気ガス規制へ対応するため、北米仕様の最高出力は106psへ調整。ところが、ツイン・キャブレターが維持されている。
過去と現代が微妙に融合したような雰囲気
他方、欧州仕様などには燃料インジェクションが選ばれた。ガソリン量の正確な調整が可能になり、アグレッシブなカムを獲得。高い最高出力が与えられた。 それでも、アイドリング時から直6エンジンは荒っぽい。今回の6台の中で、TR5が他に紛れない特徴を備えることは間違いない。これが、多くのファンも生み出してきた。 トルクフルで、アクセルペダルを軽く傾ける度に、勇ましいサウンドが放出される。軽量なボディのリアを僅かに沈めながら、身軽に加速していく。 小径なステアリングホイールは軽く操れ、反応は正確。ブレーキは強力で、積極的に運転したい気持ちにさせる。だがボディとシャシーはセパレート構造で、小さな凹凸を通過すると、引き締められたサスペンションを介してガタガタ・ミシミシと音振が届く。 同時期のライバル、MGCと比べると、洗練性では明らかに劣る。ワイルドな評判を集めてきた理由でもある。過去と現代が微妙に融合したような、特有の雰囲気が好ましい。 パワフルなエンジンにクイックなステアリングも相乗し、場面を問わず、運転が刺激的なイベントになる。仮に、ドライバーが求めていないとしても。 協力:サラ・コックス氏、ポール・ウェスト氏、ロウルズ・モータースポーツ社