IGT法律事務所・水田修義弁護士 単独インタビュー ~ 既存プレーヤーの枠を超えた事業再生 ~
―債務者代理人と再生ファンドは対立することもある
債務者側からみると、ファンドは非常に厳しい人たちとのイメージだろう。ただ、ファンドに飛び込んでみると、再生に対する見方や意思決定のプロセスに独自性があり、投資回収・リターンにも重きを置く必要があると再認識した。バリューアップに加え、投資委員会や各種会議体でのモニタリング等もしっかりやる必要もある。それまでのキャリアでは民事再生や事業再生ADRの代理人としての債権者調整業務が主体だった。再生ファンドでは債権者調整後の投資からがスタートである点は大きな意識の変化だった。数値計画についても再生計画目線の数字とファンドがみる投資目線での数字は異なる。ファンドは、受託者責任もある中、将来計画やキャッシュフローの見方が非常にシビアと実感した。
―こうした経験を経て、2023年4月にIGT法律事務所を設立した
お世話になっている方から「そろそろ自分のネットワークで仕事をする年齢になってきたね」と言われた。それが独立という意味ではなかったが、ちょうど事務所に所属して15年と区切りも良かったので、旧知の弁護士と「一緒にやりましょう」となった。 現在の事務所をともに立ち上げた代表パートナーの小林洋介弁護士・パートナーの北村尚弘弁護士は、ともにセンチュリー法律事務所の元同僚だ。まだ規模は小さいが、クライアントや同業者を含めて事務所として信頼をしてもらえ、また、クライアントとともに成長する事務所にしたい。そうした想いも込めて、Integrity(誠実)、Growth(成長)、Teamwork(チームワーク)の頭文字を事務所名とした。
―今後の倒産、事業再生の見通しについて
負債規模の大きい企業の倒産が続発する状況ではないが、件数はさらに増加し、高止まりが続くだろう。スポンサー探索の仕方も含めて、「事業譲渡破産」は1つのトレンドになるだろう。
―破産の実務において「計画前事業譲渡」が議論になっていると聞く
過剰債務に陥っている企業の状況を整理すると、コロナ禍前と比べて公租公課が積みあがっており一般配当率が生じにくいケースが目立つ。社会保険料などの差押が入ってしまうケースもある。清算価値保障原則が維持できないと、スポンサーが付きそうな場合でも私的整理が非常に難しくなる。そのような環境下で、事業の存続や従業員の雇用維持、取引先への影響などを検討し、社会効用をプラスにするには事業譲渡して、最後は破産する実務にならざるを得ない。ただ、計画前事業譲渡の場合は、その後に(管財人による)否認の可能性や譲渡価値対価への疑義などのリスクも付きまとい、スポンサーを委縮させている面もある。既に論文もいくつか出ており、議論もされ、また個別性もあるところではあるが、計画前事業譲渡に際して「具体的にこれを守ればよい」という目安となるセーフハーバールールのようなものが必要かもしれない。 また、窮境局面にある企業が積み上がるなかで、そのボリュームゾーンの企業へのアプローチは進んでいないように感じる。規模が小さい企業への取り組みでは、企業のコスト負担力が限られる。一定規模の企業であれば、コンサルが入って人も使ってやりましょうとなるが、中小零細企業ではそれができない場合がある。こうした(中堅以上の)企業へ提供しているソリューションをダウンサイジングして、「マイクロ再生」のようなパッケージはニーズが高いと思う。 事業再生を指向したM&Aもお金がかかるので、補助金を活用しながらの実務になる。