「赤ちゃん向け」番組で稼げ――制作費も視聴率もない「万年最下位」、テレビ東京の鉱脈
こうしたテレビ東京の独特の戦略は、今に始まったものではない。 テレビ東京は現在でも視聴率、CM収入、番組制作費のどれもが他のキー局の半分以下。視聴率が低いため、CM収入を得にくいという構造的な問題を抱えている。視聴率にしても制作費にしても、これだけ他の4局と差があると、数字の取れるキャスティング、大人数でのロケ、精緻なCG加工などの正攻法で戦えば、つぶれてしまうだけだ。
コロナ禍が浮き彫りにしたテレビ東京の強み
このテレビ東京の戦略の強みが表れたのが、11月に公表された今年度の第2四半期決算だ。新型コロナ禍で、経済は壊滅的なダメージを受けた。その影響はリーマン・ショックをはるかに上回り、テレビ各社も大幅な減収となるなか、テレビ東京はしぶとく持ちこたえている。
単体(関連会社などを除いたテレビ局のみ)の営業利益をみると、テレビ朝日とTBSは赤字に転落。フジテレビもわずか1億円とギリギリの黒字。日本テレビは91億円の黒字と王者の貫禄だが、テレビ東京も10億円の黒字、前年比では日本テレビよりも減り方がはるかに少ない。またCM収入の前年比では、キー局5社の中で最も減少率が少なかった。 景気が後退すると企業が真っ先に絞るのが広告費といわれているが、それでも出稿を継続するのは効果が確実に上がる広告枠に限られる。そうした苦境において、テレビ東京の確実にターゲットに刺さる戦略は強いことが証明された。
万年最下位だけど、したたかに生き残る
テレビ東京の制作費の少なさは業界でも有名だ。 飯田氏によると『シナぷしゅ』の制作費は「びっくりするくらい少なくてこれじゃとてもできない。あと20倍ほしい」と思ったそうだ。それを支えてくれたのが逆境をくぐり抜けてきた先輩たち。「大丈夫、何とかなるし、何とかしてこそのテレビ東京だ」とさまざまな助言をしてくれたという。 テレビ東京には制作費が少ない分、よりアイデアに重きを置くという風土ができあがった。 飯田氏も、「テレビ東京はアイデアをすごく評価して背中を押してくれるんです。社員が熱意を持ってぶつかれば、外部の人もより大きな力で返してくれます。みんな楽しんで、やりたいことをやっているという感じです」と話している。 その結果、『シナぷしゅ』をはじめ『家、ついて行ってイイですか?』『緊急SOS!池の水ぜんぶ抜く大作戦』『勇者ヨシヒコ』『孤独のグルメ』など、お金はかけていないが、妙に心に残りディープなファンを獲得した番組をいくつも世に送り出した。