「赤ちゃん向け」番組で稼げ――制作費も視聴率もない「万年最下位」、テレビ東京の鉱脈
一方、スマホやYouTube、動画配信のサブスクリプションサービスが台頭し、テレビのメディアパワーの衰退は各種データ上でも明らかになっている。 「いつまでもテレビ局だからとあぐらをかいていたら絶対に負けてしまう、のみ込まれてしまうと思います」 飯田氏も危機感を語る。 『シナぷしゅ』はこうしたメディア環境の変化に対応し、企画段階からYouTubeで配信することが前提にされた。放送直後にすぐさま配信され、翌日には再生回数1万回を超えるという。赤ちゃんに泣きやんでほしいとき、いつでもどこでも見られる育児を助けるツールとして、すでに放送という枠を飛び出している。 飯田氏は「テレビ東京はうんと少ない制作費で苦労して、万年最下位と言われながらもここまでやってきました。だからこそこれからの荒波もかいくぐっていけます。テレビの未来には悲観しているかもしれませんが、テレビ東京の未来には悲観していません」と話す。
少子高齢化が加速するなか、今後、こうした子ども向けテレビ番組が増えるとは考えにくい。 『シナぷしゅ』という番組は、広さを捨てて深さをとる戦略のテレビ局に、少ない制作費という逆境をアイデア勝負で逆に楽しんでバネにする企業風土があり、産休明け子育て真っ最中の営業経験豊富な社員がいたからこそ、奇跡的に誕生したといえる。 テレビとネットが融合していく混沌とした未来、したたかに生き残っていくのは逆境に強い者だろう。彼らが次にどんなコンテンツを生み出してくれるのか注目だ。
氏家夏彦(うじいえ・なつひこ)
メディア・コンサルタント。TBSで報道、バラエティ、情報番組の制作、デジタル部門責任者、経営企画局長、コンテンツ事業局長、TBSメディア総合研究所社長、TBSトライメディア社長、TBSディグネット社長を歴任後、2017年7月に独立。元電通総研フェロー、放送批評懇談会企画委員。