アルピナ製BMW5シリーズ全7世代をテスト!5シリーズはアルピナブランドの心臓であり魂だ
佐々木氏と言えば今やカーグラフィック関係者では知らない人はいない趣味人であり、プロデューサーであり、フィクサーであり、実業家なのだが、当時24歳の佐々木氏がたばこをくゆらせながら(!)、「大人4人がゆったり乗れて、ゴルフバッグ4つを積んで、なおかつ200km/hで高速を走れるので満足しています」などと、5シリーズベースのB9セダンを前に語っているのを見ると、いい時代だったなぁと思うと同時に、こういう方にこそぴったりの一台がアルピナなのではないか、と思う。 そう、本来アルピナというのは、そういう本物のトップセレブリティか、あるいは自動車を何台も乗り知り尽くした真の愛好家が、最後に味わう隠れ家レストランのような自動車であった、というのが僕の持論である。当時は1か月に1回見ることができればラッキーくらいの希少な自動車だったし、今のように「普通のBMWじゃなんだか物足りないし、お洒落じゃないからグリーンのアルピナ買ってみましたぁ」とアメーバブログでモデルの女性がジマンするような類の自動車では、絶対に、絶対になかったのである。 そんな中でも一番硬派であり、アルピナらしいかったのが5シリーズアルピナだと思う。それが理由に、『カーグラフィック』1980年9月号では、田辺憲一氏が試乗するためにわざわざ神戸の愛読者のもとを訪ね、貴重な一台に試乗しているし、僕がアルピナという魔物の存在を知ったのはその一冊だったと記憶している。表紙ももちろんB’ターボだったし、連戦錬磨のカーグラフィック取材記者でさえめったに乗ることのできない自動車……それほどまでに貴重で希少な自動車がアルピナ5シリーズだったのだ。
それから40年が経過し、アルピナはオーナーであり創始者のもとを離れ、BMWにまるごと売却されるという衝撃的なニュースが流れた。つまり今後はBMWの一ブランドとして展開するわけで、生産も販売もBMWが行うことになる。「Mパッケージ」みたいな、色と形だけアルピナなモデルが出てきてしまうような、顔が引きつる展開も頭をよぎったが、おそらくアルピナの価値を理解しているはずのBMWはそういう安直なことはしないだろう。 もっとハイブランドでラグジュアリーな展開が予想されるが、「秘密の花園」のようなあの時代はもう帰ってこない、ということだけは確かである。街中で結構な確率で遭遇するX1ベースとかX7ベースのアルピナを見るたびに、「これじゃないのになぁ」といつも心の記憶の中に残っている当時のアルピナの残像を邪魔されるような気持ちになる。 どうかこれからもアルピナだけは目利きの人が、最後の最後に味わえる最上の自動車でいてほしい。そうでなければ昨年逝去した、日本贔屓で知られたブルカルト ボーフェンジーペンが天上で悲しむではないか。
Alexander Bernt/大林晃平
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