バイデン勝利でも大統領選は長期化する? 考えられ得る展開は? 上智大・前嶋教授に聞く
現実性低い?州議会が選挙人選ぶシナリオ
まず取り沙汰されているのが、州議会がその州の選挙人を決めるパターン。そして下院での投票によって大統領を選出するパターンです。 州議会が選挙人を選出するケースは、12月8日までに各州の結果が定まらない場合を想定していて、合衆国憲法の条文に基づいたものです。 憲法は「各々の州は、その立法部が定める方法により(中略)選挙人を任命する」と規定しています。実際これをもとに各州は選挙人の選出方法を州法で定め、ほとんどの州で1票でも多くの票を得た候補が選挙人を「総取り」する方式を採り、逆にネブラスカ州とメーン州では勝者総取りではない方式も一部採用しています。 前嶋氏は「憲法の条文を『州議会は選挙人を決めることができる』と拡大解釈し、期日までに選挙人が確定できなかった場合に、州議会が選挙人を選ぼうとするもの」だと説明します。 今回の激戦州において、ミシガン州やペンシルベニア州の議会は共和党が多数派であるものの知事は民主党という「ねじれ」の状態になっています。州議会が選んだ選挙人に知事がNOを突きつけることも想定されます。そうした場合に、どう合意形成していくかというような詳細は定められておらず、前嶋氏も「どうなるか想像がつかない」と話します。そういう意味では現実性の低いケースといえるでしょう。
年明け1月に下院が大統領を選出するシナリオ
もう一つが下院による投票で大統領を決する方法です。前嶋氏は「選挙人が決まってないなら、むしろ下院で大統領を直接決めたほうが早いという考え方もある」といいます。この方法は過去にも事例がありますが、最も直近の例でも1825年のことで200年近くさかのぼります。日本でいえば「江戸時代の話」(前嶋氏)です。 このときは、前年1824年の大統領選に立候補したジョン・クインジー・アダムズ、アンドリュー・ジャクソンら4人の中で過半数に届いた候補がおらず、下院での投票に持ち越されました。一般投票ではジャクソンが総得票数、選挙人数ともに1位でしたが、上位3人で行われた下院投票ではアダムズが勝利しました。 仮に下院投票が行われるとすれば、時期は年明けの1月6日になるだろうと前嶋氏はいいます。通常のスケジュールとしては、1月3日にアメリカ議会が開会し、1月6日までに選挙人投票の選挙結果を確認することになっていますが、この期日までにそれが不可能な場合、合衆国憲法の規定により、下院が大統領を選出します。 下院での投票は「50州ごとに各1票」が割り当てられ、計50票で争われます。「1人しか下院議員がいないワイオミング州も、最も多いカリフォルニア州(53人)も同じ1票」(前嶋氏)。憲法は「投票は州を単位として行い、各州の議員団は1票を投じるものとする」(修正12条)と規定しており、これは独立後の13州だった頃のアメリカの名残だといいます。 これと並行して上院は副大統領を選びます。下院投票でいずれの候補も過半数の26票に達せず、上院で副大統領が決まれば、副大統領が大統領代行になります。さらに下院でも上院でも過半数に達する候補がおらず、大統領、副大統領とも決まらなかった場合は下院議長が大統領代行となります。 ただ副大統領や下院議長が大統領代行になるシナリオは現実的ではないと前嶋氏はいいます。3日の大統領選と同時に行われた上院・下院議会選挙の結果を踏まえて下院の情勢をみると、26州で共和党が多数派になる見込みだからです。 「少なくとも1月20日の大統領就任式までには、いずれかの形で新しい大統領が決まる」。前嶋氏はこれらの情勢を鑑み、就任式までに大統領が決まらないという最悪の状況は免れそうだとの見通しを語りました。
■前嶋和弘(まえしま・かずひろ) 上智大学総合グローバル学部教授。専門はアメリカ現代政治。上智大学外国語学部英語学科卒業後、ジョージタウン大学大学院政治修士課程修了(MA)、メリーランド大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。主要著作は『アメリカ政治とメディア:政治のインフラから政治の主役になるマスメディア』(単著,北樹出版,2011年)、『オバマ後のアメリカ政治:2012年大統領選挙と分断された政治の行方』(共編著,東信堂,2014年)、『現代アメリカ政治とメディア』(共編著,東洋経済新報社,2019年)など。