バイデン勝利でも大統領選は長期化する? 考えられ得る展開は? 上智大・前嶋教授に聞く
トランプ氏が法廷闘争を「降りる」可能性も
ただここまでのところ、トランプ陣営から郵便投票不正に関する「証拠」は示されていません。前嶋氏は「今の段階で不正に関するまともな証拠が出ていないのは驚きと言っていいかもしれない」とトランプ陣営の法廷闘争戦術に疑問を投げかけます。 泥沼化が懸念される展開ですが、今後トランプ氏が法廷闘争から降りるシナリオも残されているといいます。 7日午後11時(米東部時間)時点で、バイデン氏は残されていた5つの激戦州のうち、ペンシルベニア州(選挙人20人)、ネバダ州(同6人)で勝利。勝利の条件である過半数270人を超える選挙人を獲得しました。ジョージア州(同16人)、アリゾナ州(同11人)でもリードしています。 バイデン氏が圧勝した場合、法廷闘争を展開するのは「ちょっとやりにくい雰囲気が出てくる」(前嶋氏)。バイデン氏ができるだけ残りの多くの州を獲ることで「トランプが降りやすくなる」と推測します。
12月8日までに各州の選挙人を確定できるか
こういった法廷闘争も含めて、ポイントとなるスケジュールが12月8日の「各州の選挙人確定」です。 「12月8日が大きなヤマになる。ここを目指して選挙人確定までに各陣営がどう動くか」と前嶋氏は指摘します。 この日までに各州でどの候補が選挙人を獲得したかという選挙結果を確定させないと、12月14日に予定されている「選挙人投票」が実施できなくなる可能性が出てきます。11月3日の一般投票は、あくまで大統領を選出するための選挙人を州ごとに選ぶ選挙なので、12月14日に選挙人が投票できなければ正式に新しい大統領を決めることができません。そのため、通常のスケジュールや方法で進めていくには、遅くともこの選挙人投票の日までに結果を確定させる必要があると前嶋氏は話します。 例えば、法廷闘争が長引いた2000年の共和党・ブッシュ(子)候補と民主党・ゴア候補の大統領選も、12月18日の選挙人投票の前に決着しました。このときはフロリダ州の票の集計をめぐって両陣営による訴訟合戦となり、最終的には連邦最高裁が12月12日、疑問票の手集計を命じた州最高裁の判決を差し戻し、ブッシュ氏の勝利が決まりました。翌日にゴア氏は敗北宣言し、1か月以上に及ぶゴタゴタは日程ぎりぎりのところで収拾したのです。 ちなみに、選挙人が期限までに確定したとしても「不誠実な選挙人」が出てくる可能性もあります。差がわずかだった場合には、選挙人投票で選挙人が投票先を変えることで当選者が変わるような可能性はあるのでしょうか。前嶋氏は「今年は想定しにくい。最高裁判決が今年7月にあり、州が不誠実な選挙人を防ぐことを規定できることになった。前回2016年の『7人』が異常だった」と見ます。 今回の大統領選では、12月8日ないし12月14日までに、トランプ氏が敗北を受け入れず、接戦州で再集計が行われて結果の確定が長引いたり(※)、どちらも過半数の選挙人を確保できない事態になったり、法廷闘争で決着がつかなかったりして各州の結果が確定しない場合に、別のシナリオが浮上してきます。 ただここから先の展開について前嶋氏は「例外中の例外」だとし、憲法や法が細かく想定している世界ではないため「ほとんど過去にはない話。どうなるか分からない。ある意味、あり得ない話」だと強調しました。 (※)…僅差の場合は再集計を行うなどの規定が州ごとにある。ジョージア州では得票率差が0.5ポイント以内の場合、再集計を申し立てることができる。また費用を負担すれば得票率差に関係なく可能。ペンシルベニア州では0.5ポイント以内の場合は自動的に再集計が行われるため、票の確定まで長期化する可能性がある。