無力感・敵意が権威主義化招く──自由を捨て、ナチスに走った中間層の心理
国の針路を決める衆院選投開票が22日に行われます。選挙では、有権者の支持・不支持といった投票行動を、大衆の“空気”といったり、“風”が吹くというように表現することがあります。果たして、目には見えない大衆心理とはどのようなものなのでしょうか。 帝京大学文学部、大浦宏邦教授が「大衆心理からみる現代社会」をわかりやすく説明します。 ---------- 前回、ナチス台頭の背景に「強きを助け、弱きをくじく」権威主義的パーソナリティがあることを見てきました。強いリーダーに服従しつつ、弱い立場の人を攻撃するこの心理傾向はどのようにして生まれてくるのでしょうか。F尺度を開発したアドルノとホルクハイマーが、この問題に挑戦しています。
1 家庭環境の影響
アドルノたちは権威主義の程度を測るF尺度を使って、F得点の高い人(権威主義的な傾向の強い人)45人とF得点の低い人(権威主義的な傾向の弱い人)35人を選び出しました。そしてこの80人の人たちに両親のことや、子供のころの生活環境についてインタビューを行い、どのような生活環境が権威主義的な心理傾向を生み出すのかを探ろうとしました。 アドルノたちはF得点の高い人たちが、両親のことを自慢する傾向があることを見出しています。特に両親の社会的地位や美しさが自慢の種になるようです。スネ夫くんに両親のことを聞いても、同じような答えが返ってきそうですね。 「うちのパパは偉いんだ。ママはとっても綺麗なんだぞ!」。 その一方で、両親の人柄を褒めることはないようです。権威主義的な人は両親の社会的地位や外見のような外面的特徴の賛美に終始するとアドルノたちは書いています。両親を褒めることで「だから自分もすごいんだ」とアピールをしたいのでしょう。 さらに面接で子供の頃のことをよく聞いていくと、両親への不満も顔をのぞかせます。「門限が厳しかった」、「強く叱られた」、「弟と比べて不公平な扱いをされた」などなど、両親を賞賛しつつ、その裏では不満や反感を募らせていたことが伺えます。 F得点の低い人たちはどうだったでしょうか。アドルノたちによると、両親の賞賛はあまり見られないようです。たとえば、のび太くんはF得点が低そうですが、のび太くんが両親の自慢をしているシーンは想像しにくいですね。その代わり、パパやママの欠点や失敗談を含めた楽しいエピソードを語ってくれそうです。アドルノたちは愛情の感じられる家庭環境を低得点者の特徴としてあげています。