なぜ久保建英は東京五輪白星発進の“救世主”となったのか?
久保が言及したそういうこととは、要は不慮のけがやアクシデントなどでサッカーから遠ざかってしまう状況を指していた。刹那にすべての力を注いで生きていくからこそ、たとえばゴール数などシーズン開幕を前にした個人的な目標を問われても、久保はその度に「そういうのはあまり好きじゃないので」と明言を避けてきた。 グループリーグ初戦を直前に控えて、対戦相手の南アフリカが新型コロナウイルス禍に見舞われた。PCR検査で陽性判定が出た主力選手2人とスタッフ1人が隔離され、選手とスタッフ合わせて一時は21人が濃厚接触者に認定された。 濃厚接触者はその後18人となったが、試合に出場できるかどうかはキックオフ6時間前を目安に受けるPCR検査の結果に委ねられた。陰性を示した選手を最低でも、国際サッカー連盟(FIFA)が定める13人登録できなければ試合は成立しない。組織委員会から試合開催が正式に発表されたのはキックオフの2時間前だった。 「あること、ないことをいろいろ書かれた感じでしたけど、実際にふたを開けてみたら南アフリカは全員がすごくいいコンディションでした。僕たちももとからそういう情報に踊らされるつもりはなかったけど、すごくいいチームでしたし、苦戦すべくして苦戦した試合なのかなと思いましたけど、結果的に最後のところで自分が差を出せてよかった」 一時的に練習ができなかった影響で、心身のコンディションが落ちていると伝えられた南アフリカは自陣でしっかりとブロックを形成し、スピードを駆使してカウンターを仕掛けてきた。リザーブの人数も足りない状態で、それでも闘志を前面に押し出してきた相手から、現時点における久保の最大値を凝縮させた一撃で白星を奪った。 中2日で25日に待つ次戦はU-24フランス代表を4-1で一蹴し、上位を狙う強豪国であることを証明したU-24メキシコ代表と埼玉スタジアムで対峙する。 「今日の出来ではまだまだメキシコ相手には通用しないと思う。ただ、自分たちはもっと強い相手からもしっかりと勝ち点を拾ってきたので、その意味ではメキシコ相手に正面から挑んで、勝ってグループリーグ突破に近づきたいと思う」 前を見すえた久保は、東京五輪に臨むU-24代表の目標に関しては堂々と公言している。曰く「いい意味で世界を驚かせるような大会にしたい」と。チームを救い、世界を驚かせるスーパーゴールで、大願成就への第一歩を力強く踏み出した。 (文責・藤江直人/スポーツライター)